ペプロス

ペプロス：古代ギリシア女性の装い

ペプロスは、紀元前6世紀頃から古代ギリシアの女性が着用していた長衣です。特にドーリア人の女性に愛用され、そのシンプルな構造の中に、時代の変遷や地域性、素材による多様な表現が込められています。

構造と着こなし

ペプロスは、一枚の長方形の布を二つに折り、その間に体を挟んで両肩をフィビュールと呼ばれるピンで留めるという、非常にシンプルな構造をしています。通常は足首丈になるようにたくし上げ、腰を帯で締めて着用しました。狩猟やスポーツの際には、膝上までたくし上げ、胸の下にも帯を締めることで、より活動的なスタイルとなりました。スパルタの女性たちは、キトンがギリシア全土で流行した後も、ウールのペプロスを愛用し続けました。

初期のペプロスは、腰から上が縫われていないものが多かったのですが、時代が下るにつれて脇を縫い閉じるものが主流となりました。色は白が一般的で、高級なものには縁に線条が施されることもありました。暁の女神エーオースの異名である「クロコペプロス（サフラン色のペプロス）」が示すように、身分の高い女性の中には、染色や刺繍を凝らしたペプロスを着用する者もいました。

腰のたるませた部分をコルポス、折り返した部分をアポティグマと呼びます。外出時には、背の部分のアポティグマを頭にかぶってベールのようにすることもありました。また、外出時にはヒマティオンという毛織の大きな長方形の布を外套として身にまとったり、イオニア式キトンの上にペプロスを重ね着したりすることもありました。

社会とペプロス

ギリシアでは、機織りは奴隷の労働ではなく、庶民から貴婦人まで家庭の婦人が当然行う作業と考えられていました。ギリシア人に非常に尊敬された女神であるアテナも機織りを得意としており、アテナ神の祭祀であるパナテナイア祭では、少女たちが九か月かけて織ったペプロスをアテナ神像に捧げる儀式がありました。このことは、ペプロスが単なる衣服としてだけでなく、宗教的な意味合いも持っていたことを示しています。

ローマへ

ペプロスは、後にキトンと併せてストーラと呼ばれ、ローマ女性にも着用されるようになりました。古代ギリシアからローマへと受け継がれる中で、そのデザインや着こなしは変化していきましたが、女性たちの生活に深く根ざした衣服としての役割は変わることはありませんでした。

ペプロスは、古代ギリシアの女性たちの生活、文化、そして信仰を映し出す鏡のような存在であり、そのシンプルな美しさは、現代においても私たちを魅了し続けています。

参考文献

丹野郁 編『西洋服飾史 増訂版』東京堂出版 ISBN 4-490-20367-5
千村典生『ファッションの歴史』鎌倉書房 ISBN 4-308-00547-7
深井晃子監修『カラー版世界服飾史』美術出版社 ISBN 4-568-40042-2

関連項目

キトン (衣類))

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