ペリシテ人に目を潰されるサムソン

レンブラント・ファン・レインによる油彩画『ペリシテ人に目を潰されるサムソン』（1636年）は、オランダ黄金時代の傑作として知られています。この作品は、旧約聖書「士師記」のサムソンの物語、特にペリシテ人に目を潰される場面を描写したものです。レンブラント以前の画家がこの場面を主題とした作品を残していないという点で、この絵画は類を見ないものです。

この絵画は、当初オラニエ＝ナッサウ家に贈られました。レンブラントが同家から依頼されていた『受難連作』の制作が遅延した際の弁明として、執事コンスタンティン・ハイヘンスを通じて贈呈されたとされています。その後、フリードリヒ・カルル・フォン・シェーンブルンを経て、1905年にシュテーデル美術館が購入し、現在に至っています。

絵画の主題は、士師記16章17-21節に描かれているサムソンの盲目化です。サムソンは特別な力を持ちながら、ペリシテ人の女性デリラに力の秘密を奪われ、髪の毛を切られて無力化されます。そして、ペリシテ人によって捕らえられ、目を潰されるという悲劇的な結末を迎えます。

レンブラントはこの場面を劇的に表現しています。背景には、髪の毛とハサミを持ったデリラが逃げる様子が描かれ、彼女の華やかな衣装はサムソンの破滅が官能的な原因によるものであることを示唆しています。サムソンは、地面に倒れ、複数の人物によって押さえつけられ、縛られ、そして目を潰されています。彼の苦痛は、ねじれた体と、歯を食いしばり、拳を握り締めた手に表れています。

レンブラントは、光と影の巧みな使い分けによって、この残酷な場面に劇的な緊張感を与えています。強い光が画面の一部を照らし、まるで舞台照明のように、サムソンの苦痛を際立たせています。この光の使い方について、レンブラント自身は「強い光の当たる場所にかけて、少し離れたところから見られるようにすれば最も効果的だ」と述べています。

この絵画は、サムソンの物語の中でも特に恐ろしい場面を選んで描かれている点で注目に値します。そのおぞましさは目を背けたくなるほどですが、同時に、レンブラントの卓越した技量と、光と影による劇的な表現によって、鑑賞者を魅了する作品となっています。サムソンはイスラエルの指導者という役割に加え、オランダの歴史家からはオランダの役職の模範と見なされていたため、この作品は宗教的な主題を超え、政治的な含みも持っていると考えられます。

サムソンの物語は、力と弱さ、勝利と敗北、そして誘惑と破滅といった普遍的なテーマを扱っており、レンブラントの絵画はこれらのテーマを視覚的に表現した傑作と言えます。現在、この作品はシュテーデル美術館で公開されており、多くの人々がその圧倒的な表現力と劇的な物語に魅了されています。参考文献として、マリエット・ヴェステルマン『岩波　世界の美術　レンブラント』や『カンヴァス世界の大画家 16 レンブラント』などを挙げることができます。

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