ペンタクロロニトロベンゼン

ペンタクロロニトロベンゼン（PCNB）：その特性と歴史、そして環境への影響

ペンタクロロニトロベンゼン（PCNB）は、化学式C6Cl5NO2で表される有機化合物です。キントゼンという別名でも知られており、かつては殺菌剤として広く利用されていましたが、その毒性と環境への影響から、現在は使用が禁止されています。

PCNBの性質

純粋なPCNBは無色ですが、不純物を含む場合は淡黄色の結晶となります。独特の臭気を持ちます。1868年には既に研究室での合成に成功しており、水銀系農薬の代替品として、1930年代にドイツのバイエル社によって開発されました。

PCNBの用途と歴史

日本では1956年に農薬登録を受け、野菜の根こぶ病、立枯れ病、根腐れ病などの防除に使用されてきました。しかし、環境への影響や毒性に関する懸念から、2000年には登録が失効しました。PCNBは、その効果の高さから長らく使用されてきましたが、その一方で、環境への負荷が大きいことが明らかになったため、使用禁止という決断に至りました。

PCNBの製造方法

PCNBは、ヨウ素を触媒として、ニトロベンゼンを塩素化することで製造されます。60～70℃という比較的低い温度で反応が進行します。化学反応式は以下の通りです。

5 Cl2 + C6H5NO2 → C6Cl5NO2 + 5 HCl

この反応は、ニトロベンゼンの水素原子が塩素原子に置換される反応です。

PCNBの安全性と環境への影響

PCNBの安全性は、動物実験によって評価されています。ラットへの経口投与による半数致死量（LD50）は1650mg/kg、ウサギへの経皮投与によるLD50は5000mg/kg以上です。しかし、水生生物に対しては非常に強い毒性を示し、ミシッドシュリンプに対する48時間半数致死濃度（LC50）はわずか0.01μg/Lです。

さらに、PCNBには深刻な問題があります。それは、発がん性のあるヘキサクロロベンゼン（HCB）が不純物として含まれている可能性がある点です。また、600～800℃の高温で加熱分解した場合にもHCBが発生します。

千葉県と群馬県の農業試験場による調査では、PCNBを散布した土壌から、HCB以外にもペンタクロロアニリン、ペンタクロロベンゼン、ペンタクロロチオアニソールなどの代謝産物が検出されました。PCNB自身の土壌中での半減期は約2～3ヶ月と比較的短いですが、これらの代謝産物の中には、半減期が3年以上と非常に長いものも存在します。これらの代謝産物は、土壌環境に長期にわたって残留し、生態系に影響を与える可能性があります。

PCNBの使用禁止は、その高い殺菌効果と引き換えに支払うべき代償の大きさ、そして環境保全の重要性を示す一つの事例と言えるでしょう。現在では、より環境に優しい殺菌剤が開発され、利用されています。

もう一度検索