ヘキサクロロベンゼン

ヘキサクロロベンゼン：その毒性と環境への影響

ヘキサクロロベンゼン（HCB、Hexachlorobenzene）は、ベンゼン環のすべての水素原子が塩素原子に置換された有機化合物です。かつては、特に小麦などの穀物の殺菌剤として広く使用されていましたが、その高い毒性から、現在では多くの国で製造・使用が禁止されています。

物理化学的性質

HCBは白色の結晶性固体で、水への溶解度は非常に低く、有機溶媒であるジエチルエーテル、ベンゼン、エタノール、クロロホルムなどには溶解します。昇華性が高く、比較的低い温度で気化します。引火点は高く、燃えにくい性質を持っています。

毒性

HCBは、動物実験や疫学調査から、強い発がん性を持つことが確認されています。肝臓、腎臓、甲状腺などへの腫瘍発生率の増加が認められており、国際がん研究機関（IARC）では、発がんリスクグループ2Bに分類されています。

ヒトへの影響としては、ポルフィリン症（血液中のポルフィリン代謝異常）、皮膚の病変（潰瘍、光線過敏症、脱毛など）などが報告されています。また、神経系への影響や、胎児への影響（胎児死亡、奇形）も懸念されています。経口摂取だけでなく、皮膚からの吸収や吸入によっても体内へ取り込まれる可能性があります。母乳中にも検出されるため、授乳中の乳児への影響も考えられます。

ラットを用いた実験でのLD50（半数致死量）は、経口投与で10,000mg/kg、吸入で3,600mg/kgと報告されています。マウスの経口投与LD50は4,000mg/kgです。これらの値は、他の多くの化学物質と比較して比較的高い値ですが、慢性的な曝露による健康への影響は、これらの値だけでは判断できません。

環境への影響

HCBは、環境中、特に土壌や水中に残留しやすく、半減期は土壌中で3～6年と長期間にわたります。水生生物への毒性も強く、生物濃縮を起こす可能性があるため、水系生態系への影響が懸念されています。

法規制

HCBは、その高い毒性と環境残留性から、多くの国で規制されています。2001年に採択されたストックホルム条約では、残留性有機汚染物質（POPs）として指定されており、その製造、使用、輸出入などが厳しく制限されています。日本においても、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律（化審法）により、第一種特定化学物質として指定され、厳格な規制がかけられています。

まとめ

HCBは、高い毒性と環境残留性を有する有害な化学物質です。かつて殺菌剤として使用されていましたが、その危険性から使用が禁止され、現在では厳格な規制下にあります。環境保全と人々の健康を守るため、HCBの適切な管理と対策が不可欠です。今後、HCBの環境中濃度やヒトへの曝露状況に関するモニタリング、新たな汚染源の発見とその対策が重要となります。また、HCBの分解や無毒化技術の開発も重要な課題です。

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