ホット・イン・ザ・シェイド

KISS『ホット・イン・ザ・シェイド』：1980年代を締めくくる意欲作

1989年にリリースされたKISSの15枚目のスタジオアルバム『ホット・イン・ザ・シェイド』は、バンドの多様な音楽性を凝縮した作品として知られています。全15曲というKISSのスタジオアルバムの中で最多の収録曲数を誇り、約1時間にも及ぶ演奏時間は、バンドのアルバムの中でも最長クラスです。

特徴

本作は、前作『クレイジー・ナイト』で大きくフィーチャーされたキーボードサウンドから一転し、よりストレートなハードロックサウンドに回帰しています。しかし、単なる原点回帰に留まらず、「ブーメラン」ではスピードメタルにも挑戦するなど、新たな試みも積極的に取り入れられています。

また、本作の大きな特徴の一つとして、ドラマーのエリック・カーが「リトル・シーザー」でリードボーカルを務めている点が挙げられます。これは、1981年の『〜エルダー〜 魔界大決戦』以来、ポール・スタンレーとジーン・シモンズ以外のメンバーがリードボーカルを務めた初のフルスタジオアルバムであり、1991年に急逝したカーにとって、全面的に参加した最後のアルバムとなりました。

ヒット曲「フォーエヴァー」

アルバムには、マイケル・ボルトンとの共作によるパワーバラード「フォーエヴァー」が収録されています。この曲は、KISSのノーメイク時代における最大のヒット曲となり、ビルボードチャートで8位を記録。これは、「ベス」以来13年ぶりのトップ10入りという快挙でした。

ミュージックビデオ

「ライズ・トゥ・イット」のミュージックビデオでは、ポール・スタンレーとジーン・シモンズが1983年以来となるKISSのメイクを披露。往年のファンを熱狂させました。ただし、ビデオに登場する衣装は、シモンズが『仮面の正体』（1980年）時代、スタンレーが『ラヴ・ガン』（1977年）時代のものであり、歴史的な正確性は考慮されていません。

レコーディング

アルバムは1989年の夏にハリウッドのThe Fortressでレコーディングされました。ジーン・シモンズとエリック・カーは、より削ぎ落とされたサウンドを求めていくつかのスタジオを検討した結果、このスタジオを選んだと言われています。また、アルバムをより生々しくするために、低予算で制作。曲を録り直すのではなく、録音したデモを活かしてオーバーダブで磨きをかけるという手法が採用されました。

評価と影響

『ホット・イン・ザ・シェイド』は、1989年12月20日にRIAAからゴールド認定を受けました。アルバムからは3本のミュージックビデオが制作され、「フォーエヴァー」はMTVで1位を獲得するなど、大きな成功を収めました。

また、本作で「ビトレイド」と「ザ・ストリート・ギヴス、ザ・ストリート・テイクス・アウェイ」を共作したトミー・セイヤーは、後にエース・フレーリーの後任としてKISSのリードギタリストに就任。バンドの歴史に深く関わることとなりました。

『ホット・イン・ザ・シェイド』は、KISSの多様な音楽性と実験精神が結実した作品であり、1980年代のKISSを締めくくるにふさわしい意欲作として、今もなお多くのファンに愛され続けています。

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