ホッパー (宇宙船)

ホッパー

ホッパー（Hopper）は、かつて欧州宇宙機関（ESA）が構想していた先進的な形態の有人宇宙往還機計画です。機体は揚力を利用するリフティングボディ形状を採用しており、欧州再使用ロケット（RLV）計画において検討された多様な提案の一つとして位置づけられていました。

計画の概要と構想された打ち上げ方法

ホッパー計画の大きな特徴は、その独特な打ち上げ方式にありました。これは、全長約4キロメートルの磁気浮上式水平軌道（マグネティックトラック）上で機体を加速し、発射速度を得て軌道を離れるという、非常に革新的な手法が想定されていた点です。この方式は、従来の垂直発射に比べてコストを抑える可能性が謳われていました。

構想では、機体は水平軌道での加速後、弾道飛行を行い高度約130キロメートルに到達します。そこで機体から分離される使い捨ての上段ロケットに点火し、その上段がペイロード（例えば衛星）を第一宇宙速度まで加速させて軌道へ投入します。つまり、ホッパー機体単独で軌道速度に達する単段式ではなく、使い捨ての上段を併用する設計でした。ペイロード分離後、ホッパー機体は大気圏に再突入し、大西洋上に位置する小島へ滑空着陸する予定でした。着陸後は船で欧州のギアナ宇宙センターまで輸送され、再整備される運用サイクルが計画されていました。

このホッパーの概念は、欧州の将来宇宙輸送システム研究プログラム（FESTIP）において設計調査が進められ、将来のロケット計画の分析対象ともなりました。

期待された経済性と目的

計画が推進されていた時期、ホッパーは既存の有人宇宙機と比較して大幅に経済的な宇宙輸送手段となる可能性が宣伝されていました。EADS社の広報担当者による試算では、再使用型ロケットによる衛星軌道投入コストは、1キログラムあたり15,000ドルが見込まれていました。これは、21世紀初頭における欧州独自の非軍事的な宇宙開発における重要な一歩と位置づけられ、国際宇宙ステーション（ISS）計画における物資輸送や人員交代といった役割を担うことも期待されていました。

開発体制と計画の終焉

ホッパー計画の開発は、主にEADS社が計画運営や全体のソフトウェア開発を担い、その他多くの関連企業も開発に参画しました。当初、欧州宇宙機関（ESA）とEADS社は、2015年から2020年頃までの実用化を目指していましたが、過去のエルメス宇宙機計画のように断念される可能性も指摘されていました。そして実際に、2004年5月に主要な試作機試験が実施された後、計画の進展に関する公式な情報は途絶え、事実上、計画は中止されたと考えられています。

試作機「フェニックス」

ホッパー計画の実証のために、欧州では主要な試作機「フェニックス（Phoenix）」が開発されました。この名称は、アリアンロケットにまつわる神話（アリアンが飼っていたというフェニックス）に由来するとされています。なお、ドイツ国内では、ホッパーの1/17スケールの模型を用いた研究計画も「フェニックス」と呼ばれていました。

このフェニックスRLV打ち上げ機試作機は、ドイツのASTRA計画の一部としても推進されました。プロジェクトには、ドイツ政府、EADSアストリアムスペーストランスポーテーション社、そしてブレーメン州がそれぞれ約3分の1ずつ資金を拠出し、総額で4000万ユーロが投じられました。さらに、ブレーメンを拠点とするOHBシステム社やドイツ航空宇宙センター（DLR）といった提携企業、連邦教育研究大臣からも資金が供給されるなど、幅広い機関からの支援を受けていました。

開発されたフェニックスRLV試作機は、計画されていた実機ホッパーの約6分の1スケールでした。具体的には、全長6.9メートル、重量は約1200キログラム、翼長は3.9メートルでした。これは、EADSブレーメン研究所における開発工程の第一段階を締めくくる成果物でした。

滑空試験の成功

2004年5月8日（土曜日）には、フェニックス試作機の重要な試験である滑空試験が実施されました。この試験は、スウェーデン、ストックホルムの北約1240キロメートルに位置するキルナの北欧航空研究施設で行われました。試作機はヘリコプターによって高度2.4キロメートルまで吊り上げられ、そこから投下されました。投下後、フェニックスは搭載されたGPS誘導システムを用いて約90秒間の滑空を行い、異常なく正確な目標地点に着地することに成功しました。この試験は、ホッパーのようなリフティングボディ形態の航空機が持つ潜在的な滑空性能や制御性を評価することを主な目的としていました。

この試験の成功を受けて、開発チームは将来的にはより高い高度からの投下（気球によるものも検討されました）や、再突入時の空気加熱や超音速での滑空性能を調べるための高度約130キロメートルからの滑空試験なども構想していました。しかし、前述の通り、この滑空試験をもって計画の公式な進展は停止し、残念ながらホッパー計画は実現に至りませんでした。

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