ホモゲンチジン酸

ホモゲンチジン酸

概要

ホモゲンチジン酸（Homogentisic acid）は、ヒトを含む多くの生物において、フェニルアラニンおよびチロシンという二つの芳香族アミノ酸の代謝経路で生成される重要な中間体です。化学名としては「2,5-ジヒドロキシフェニル酢酸」とも呼ばれ、構造が類似した化合物であるゲンチジン酸（2,5-ジヒドロキシ安息香酸）に比べ、炭素原子が一つ多く含まれる点に由来しています。体内では、これらのアミノ酸を分解し、エネルギーとして利用するための一連の生化学反応の中で一時的に現れる化合物です。

生化学的経路

体内でのホモゲンチジン酸の生成と分解は、特定の酵素によって制御されています。まず、チロシンの代謝中間体である4-ヒドロキシフェニルピルビン酸から、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナーゼ（EC 1.13.11.27）により合成されます。

次に、生成されたホモゲンチジン酸は、ホモゲンチジン酸 1,2-ジオキシゲナーゼ（EC 1.13.11.5）という別の酵素によって分解されます。この酵素は、ホモゲンチジン酸のベンゼン環を開裂させ、4-マレイルアセト酢酸に変換します。4-マレイルアセト酢酸は、さらに反応を経てフマル酸とアセト酢酸に分解され、これらはエネルギー代謝経路に組み込まれます。このように、ホモゲンチジン酸はアミノ酸からエネルギーへの変換過程における重要な橋渡し役です。

自然界における存在

ホモゲンチジン酸は、ヒトの代謝中間体であると同時に、自然界のいくつかの生物や食品にも存在します。代表的な例として、食用植物であるタケノコに含まれることが挙げられます。タケノコには多くのチロシンが含まれており、収穫後の代謝過程でホモゲンチジン酸が生成されます。これがタケノコの持つ特有のえぐみ（アク）の原因の一つとされています。また、伝統的な生薬である半夏などにも含まれることが報告されています。

病理学的な関連

ホモゲンチジン酸の代謝経路に異常が生じると、特定の健康問題を引き起こす可能性があります。最も代表的なのは、希少な遺伝性疾患であるアルカプトン尿症（Alkaptonuria）です。これは、ホモゲンチジン酸を分解する酵素であるホモゲンチジン酸 1,2-ジオキシゲナーゼの機能が、遺伝子の変異などにより損なわれることで起こります。

酵素機能の低下により、ホモゲンチジン酸は体内で適切に分解されず、血液や組織中に蓄積します。蓄積したホモゲンチジン酸は尿中に排泄されますが、空気中の酸素に触れると酸化されて黒色の色素に変化するため、アルカプトン尿症患者の尿は黒く変色するという特徴的な症状が見られます。さらに、長期間にわたるホモゲンチジン酸やその酸化物の体内組織への沈着は、特に軟骨などの結合組織で起こりやすく、これが原因となって重度の関節炎などにつながることがあります。

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