ホラアナグマ

ホラアナグマ（洞穴熊）とは

ホラアナグマ（学名：Ursus spelaeus）は、更新世後期（氷期）のヨーロッパやアジア南西部に生息していた、クマ科の絶滅種です。その名の通り、洞窟内で骨が多数発見されることから名付けられました。

発見の歴史

ホラアナグマの骨格が最初に報告されたのは1774年、ヨハン・フリードリヒ・エスペルによるものでした。当初、彼はホラアナグマをホッキョクグマの仲間だと考えましたが、後にその見解を修正しました。化石が豊富に発掘されたため、第一次世界大戦中にはリン酸塩の原料として大量に消費されるという悲しい歴史も持っています。

生態

ホラアナグマは、全体的にヒグマに近い骨格を持っていました。上腕骨はホッキョクグマに近く、雄の大腿骨はコディアックヒグマ、雌の大腿骨はホッキョクグマに近いサイズだったとされています。体重には性的二形が見られ、雄は平均350～600キログラム、雌は平均225～250キログラムでした。巨大な個体では推定体重が1トンに達した例もあり、現生する最大級のクマに匹敵するほどの大きさでした。興味深いことに、間氷期に生息していた個体は、氷期の個体よりも小型であり、これは熱損失量を調整するためだったと考えられています。

化石として発見されたものの中には、小型亜種と大型亜種が存在します。小型のものは草食性が強く、大型のものは肉食性が強かったことがわかっています。特に小型のものは洞窟よりも草原を好み、草食への適応として裂肉歯が退化していました。最終氷期の個体は、他のクマ類とは異なり、いくつかの小臼歯を失っており、最奥の臼歯が細長く尖っていました。

ゲノム解析の結果、ホラアナグマはハイイログマと交配していたことが判明しており、現生のハイイログマの中にもホラアナグマの遺伝子を持つ個体が存在します。

絶滅の謎

ホラアナグマは約2万4千年前に絶滅したと考えられていますが、その原因は一つではなく、複数の要因が複合的に作用したと考えられています。

絶滅時期が最終氷期の最盛期と他の大型動物よりも早かったことから、食生活の偏りや限られた分布が原因とする説が提唱されました。しかし、この説には異論もあり、ホラアナグマが絶滅以前に幾度かの気候変動を乗り越えてきたこと、遺伝的多様性の減少が絶滅よりも遥か以前から始まっていたことから、気候変動による分布の喪失は直接的な原因ではないと考えられています。ルーマニアで発見された骨の分析からは、これまで考えられていたよりも幅広い食物を摂取していた可能性も示唆されています。

人類による過剰狩猟説も存在しますが、当時の人類の総人口を考えると支持は多くありません。しかし、洞窟を住処としていたことから、人類との競争関係にあったことは想像に難くありません。ヒグマと比較して壁画の数が少ないことから、人間が狩猟対象として重視していなかったと考える研究者もいます。ビヨルン・クルテンは、氷河の進出以前から個体群の孤立化と減少が始まっていたと推定しています。アルプス山脈よりも南に生息していた個体群は、他の個体群よりも長く生き残ったと考えられています。

ホラアナグマが洞窟生活に特化していたため、冬季に洞窟を見つけられない個体が発生し、死亡率が高かった可能性も指摘されています。また、人類の増加と拡散によって食物や生息環境を巡る競争が激化し、約3万5千年前頃から中央ヨーロッパにおいてホラアナグマの減少が著しいことから、人類との軋轢が絶滅に関与した可能性も示唆されています。

登場作品

ホラアナグマは、その特異な生態から、様々な作品に登場しています。

プレヒストリックパーク（第2回）: 冬眠を邪魔されたホラアナグマが主人公に襲いかかるシーンが描かれています。
今よみがえる 氷河期の動物たち（後編）: ホラアナライオンとの激闘シーンが登場します。
始原への旅だちシリーズ（大地の子エイラ）: ネアンデルタール人の氏族のトーテムとして崇められています。

関連項目

洞穴生物

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