ホンダ・ライフステップバン

ホンダ・ライフ ステップバン：時代の先を行く個性派軽バン

本田技研工業がかつて世に送り出したユニークな軽自動車「ライフ ステップバン」は、短い販売期間ながらも、その革新的なデザインと実用性で多くの人々の記憶に残るモデルです。親しみを込めて「ステップバン」と呼ばれ、現代の軽トールワゴンの源流とも言える存在でした。

革新的なコンセプトとデザイン

この車は、当時のホンダの軽乗用車「ライフ」の車台を基盤として開発されました。最大の特徴は、ボンネットを備えながらも垂直に近い背の高い「トールボーイ」型のボディを採用した点です。これは1972年当時としては軽自動車において類を見ないパッケージングであり、今日の主流である軽トールワゴンのスタイルを先取りしていました。

ライフのFF（前輪駆動）プラットフォームを流用したことにより、従来の軽バンと比較して際立って低い床面を実現したことも、大きなアドバンテージでした。これにより、荷物の積み下ろしが格段に容易になり、実用性が飛躍的に向上しました。

デザイン面では、製造コストの抑制を図ったと思われる特徴的な工夫が見られます。左右のドアは完全に非対称であり、例えば左側の前部ドアと右側の後部ドア、右側の前部ドアと左側の後部ドアが、サッシやドアハンドルなどを除いて同じ形状をしています。

実用性を追求した室内

室内に目を向けると、そのユニークなデザインが単なる奇抜さだけでなく、徹底した実用性を目指していたことがわかります。メーター類は運転席の正面ではなく、ダッシュボード中央に配置されるセンターメーター方式を採用。これにより、運転席前のスペースが広く確保されました。

さらに、平坦なダッシュボード上面はまるでオフィスのデスクのように利用でき、伝票の記入や整理といった作業を車内で行うのに非常に便利でした。この機能性は特にビジネス用途、例えばルートセールスなどを行う営業担当者から大変好評を得ました。

また、荷室の使い勝手も秀逸でした。後部座席は簡単に折り畳むことができ、広大でフラットな荷室空間が現れます。これにより、かさばる荷物や長尺物の積載も容易になり、ライトバンとしてのポテンシャルを最大限に引き出していました。

短い生涯、そして後世への影響

「ライフ ステップバン」は、初代にあたるVA型として1972年9月に発表・発売されました。当時の標準仕様の東京地区店頭渡し価格は37万6千円でした。翌年にはピックアップトラック仕様の「ライフピックアップ」も追加されるなど、ラインアップの拡充も図られました。

しかし、ホンダが当時の厳しい排出ガス規制への対応や、他の事業への集中を図るため、軽自動車市場から一時的に撤退することを決定したのに伴い、1974年10月にはわずか約2年間の販売期間をもって生産を終了しました。ライフシリーズ全体、そして「ステップバン」は一代限りでその歴史に幕を下ろすこととなったのです。

販売終了後も、「ステップバン」はその個性的なスタイルから、カスタムベース車両として根強い人気を保ち続けました。中古車市場では稀少価値もあり、今なお多くのファンに愛されています。

また、その名称とコンセプトは、ホンダのその後のモデルにも影響を与えました。販売終了から20年以上が経過した後に登場したミニバン「ステップワゴン」は、「ステップバン」の名を継承するモデルとして開発され、その人気は現代まで続いています。さらに、「S-MX」には「ステップ・バーン」という愛称が与えられ、オマージュが捧げられました。

近年では、ホンダの軽自動車「N」シリーズにおいて、「N-BOX」が背の低いシャシーにハイルーフを組み合わせるコンセプトで登場し、間接的にその思想が受け継がれています。2019年に登場した二代目「N-WGN」は、そのデザインに「ステップバン」を彷彿とさせる要素を取り入れており、アフターパーツメーカーからは「ステップバン」風のフロントグリルなども販売されるなど、現代においてもその存在感は薄れていません。

愛されたエピソード

「ライフ ステップバン」は、そのユニークな魅力で多くの人々に愛されました。特に有名なエピソードとしては、1980年代に人気絶頂期を迎えたアイドル歌手、小泉今日子さんがこの車をこよなく愛し、様々なメディアで公言していたことが挙げられます。1984年に出演した人気歌番組では、自身のヒット曲が連続1位を獲得した記念として、鮮やかなピンク色に塗装された自身のステップバンを自ら運転してスタジオに登場し、大きな話題となりました。これは小泉さんにとって、運転免許取得後初めて公の場で運転を披露した機会でもあったと言われています。

まとめ

わずか2年ほどという短い販売期間であったにも関わらず、ホンダ「ライフ ステップバン」は、その大胆なデザイン、実用的な室内空間、そして現代の軽トールワゴンの先駆けとなった革新性によって、日本の自動車史に確かな足跡を残しました。短い生涯ながらも、その後のホンダ車やカスタム文化に影響を与え、今なお多くのファンに愛され続ける個性的な一台です。

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