ホンダ・CBX1000

ホンダCBX：伝説の直列6気筒エンジンを搭載したオートバイ

ホンダCBXは、1978年に本田技研工業が北米とヨーロッパ市場向けに発売した、伝説的なオートバイです。単に「CBX」と言えば、このモデルを指すのが一般的と言えるでしょう。

開発の背景：ヨーロッパ市場攻略の切り札

それまでのホンダの輸出モデルは、北米市場を重視した設計が中心でした。ヨーロッパ仕様は、ハンドルやステップの位置、カラーリングなどを変更する程度で、根本的な設計思想は変わりませんでした。そのため、日本と北米で大ヒットしたドリームCB750FOURですら、ヨーロッパでの販売は伸び悩んでいました。

この状況を打破するため、ホンダの二輪部門総責任者であった久米是志氏は「ノルマンディ上陸作戦」と名付けられたプロジェクトを立ち上げ、フラッグシップモデルとしてCBXの開発を推進しました。ヨーロッパ市場におけるホンダの地位向上をかけた、野心的なプロジェクトだったと言えるでしょう。

圧倒的な性能：世界最速の称号

CBXの心臓部は、1047ccの空冷4ストローク4バルブDOHC直列6気筒エンジン（CB1E型）です。6基の28mm径CV型キャブレターが燃料供給を行い、最高出力105ps/9,000rpm、最大トルク8.6kg-m/8,000rpmという、当時の常識をはるかに超えるスペックを実現しました。

最高速度は225km/h、0-400m加速は11.65秒という驚異的な性能を誇り、これは当時の世界最速記録でした。エンジンをコンパクトに収めるため、クランクケースの両端を切り落とすなど、徹底的な軽量化と高性能化が図られています。

さらに、ハンドル、ステップ、ブレーキペダル、チェンジペダルには、量産車として初めてジュラルミン鍛造を採用するなど、細部にもこだわった設計が施されています。高回転域での排気音は、まるでジェット戦闘機やフォーミュラカーのようだったと言われ、多くのライダーを魅了しました。

モデルチェンジと進化：高速ツアラーへの転身

しかし、CB750F/900Fと共通のフロントサスペンションや、ダイヤモンドフレームの強度などの問題から、開発当初のコンセプトであったスーパースポーツとしてのポテンシャルを十分に発揮できませんでした。

そこで、CB750F/900Fの大ヒットを背景に、1981年モデルからはフルカウルを装備した高速ツアラーへと大幅なモデルチェンジを実施。より快適性を重視したモデルへと進化を遂げました。

関連車種とモデルバリエーション

CBXは、1966年のロードレース世界選手権でチャンピオンを獲得したRC166という、空冷直列6気筒エンジンを搭載したロードレーサーの技術的系譜を受け継いでいます。また、2007年に発表されたRC42型CB750には、CBXをイメージしたカラーリングが設定されるなど、その影響は後継モデルにも見ることができます。

CBXには、CBX-Z（型式名CB1、1979年モデル）、CBX-A（型式名SC03、1980年モデル）、CBX-B（型式名SC06、1981年モデル）、CBX-C（1982年モデル）など、いくつかのモデルバリエーションが存在します。それぞれのモデルで、ブレーキシステムやサスペンション、カウルなどの装備が変更されています。

まとめ：伝説に残る名車

ホンダCBXは、その圧倒的な性能と、開発に込められた情熱、そして時代を超えて語り継がれる魅力的なデザインによって、オートバイの歴史に燦然と輝く一台です。世界最速モデルとしての栄光、そしてフルカウル化によるモデルチェンジという変遷は、その時代の技術革新と市場ニーズを反映した、まさに伝説的名車と言えるでしょう。

もう一度検索