ホンダ・T360

T360とその後継モデルT500について

T360（ティーさんびゃくろくじゅう）は、本田技研工業が1963年に生産した日本初のDOHCエンジンを搭載した軽トラックです。その特徴だけでなく、開発の経緯や設計の複雑さ、さまざまな改良点について詳しく見ていきます。また、T360の小型車登録版にあたるT500（ティーごひゃく）についても触れます。

T360の開発経緯

1963年8月1日に発売されたT360は、ホンダにとって初の4輪自動車であり、中村良夫が開発を指揮しました。ホンダは当初、スポーツカーに重きを置いていましたが、専務の藤沢武夫のアドバイスにより商用車としての軽トラックにシフトすることになります。これによりT360が誕生し、冬場にバイクの代替品として需要を見込んだことも背景にあります。

デザインと構造

T360のデザインは、セミキャブオーバー形式で短いノーズを持ち、エンジンはフロントシートの下に配置されています。フレームはハット断面からなる梯子型で、フロントサスペンションにはウィッシュボーン・コイルスプリングが、リアにはリジッドアクスル・リーフスプリングが採用されています。エンジンは、当初の開発ではS360用に設計された空冷エンジンが水冷化され、T360専用の仕様で製造されました。

エンジンの特性

T360に搭載された水冷直列4気筒エンジンは、360ccで30PSを発生します。当時の軽自動車エンジンは20PS程度が主流であったため、この高出力は非常に画期的でした。前期型では京浜製のキャブレターを装備していましたが、後期型ではメンテナンスの容易さを追求し、シングルキャブレターに変更されています。

発電機と冷却システム

T360の前期型では交流発電機が採用され、後期型ではオルタネーターとセルモーターが一体化したダイナモスターターに改良されました。冷却システムも工夫が凝らされ、外気温とエンジン水温に応じてラジエーターの使用が切り替わり、カーヒーター機能も持たせられました。

設計変更と課題

販売を開始してからは、設計の複雑さが問題となり、複数回の改良を受けることになりました。エンジン番号が異なるだけで部品の互換性がなくなるなど、整備の難しさも指摘されています。中村良夫自身がこのエンジンを「オバケエンジン」と評価したことからも、開発の難しさがうかがえます。

T500の位置付け

1964年には、T360の荷台を延ばしたモデルであるT500が登場します。S500用のエンジンを商用車向けに最適化し、最高出力は38PSに達しました。T500は軽トラック登録ではなく、当時の小型車に分類されていました。

市場の反応

T360は4年間で10万892台が製造されましたが、国内他社の軽トラックの販売台数は154万3154台と圧倒的でした。そのため、T360の市場占有率は約6%にとどまりました。1967年には後継モデルのTN360にバトンを渡し、T360は販売が終了します。

最終的に、2021年には4代目アクティトラックが生産を終了し、ホンダの軽トラックの歴史は59年の時を経て幕を下ろしました。

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