ボッカチオ'70

『ボッカチオ'70』は、1962年に公開されたイタリアとフランスの合作によるオムニバス映画です。マリオ・モニチェリ、フェデリコ・フェリーニ、ルキノ・ヴィスコンティ、ヴィットリオ・デ・シーカという、イタリア映画史に名を刻む巨匠4人が監督を務めたことでも知られています。

この映画は、チェーザレ・ザヴァッティーニの発案によるもので、彼の代表作である『自転車泥棒』にも通じる、社会風俗を鋭く風刺するユーモラスな作風となっています。いわゆる「イタリア式コメディ」の代表作として高く評価されており、現代社会における愛とモラルを、軽妙洒脱なタッチで描いた作品群は、観る者の心に深く刻まれることでしょう。

映画は4つの短編で構成されており、それぞれが異なる監督によって演出されています。各作品は、14世紀の詩人ボッカチオの『デカメロン』を思わせるスタイルで、現代社会のさまざまな側面を描き出しています。しかし、興味深いことに、当初の公開版では、モニチェリ監督による第1話が、イタリア国内の配給会社の事情により、公開されませんでした。このことに対し、監督たちは配給会社の政策に反発し、第15回カンヌ国際映画祭への参加をボイコットする事態にまで発展しています。

その後、日本でビデオ版や劇場公開版として公開された際には、ようやく4つの短編全てが揃った完全版として鑑賞できるようになりました。この完全版は、当初の意図通り、各監督の個性と才能が融合した、より完全な作品として観る者に届くこととなったのです。

各短編の監督、脚本家、撮影監督、音楽家、主演俳優陣は、イタリア映画界を代表する豪華な顔ぶれです。それぞれの短編は、独特の雰囲気と魅力を持っており、4人の巨匠の異なる視点と才能を見事に堪能できます。

第1話『レンツォとルチアーナ』は、マリオ・モニチェリ監督による作品で、ポストモダン作家として知られるイタロ・カルヴィーノが脚本に参加しています。カルヴィーノは当時ローマ在住で、数年後にパリへと移住しました。

第2話『アントニオ博士の誘惑』は、フェデリコ・フェリーニ監督作品。フェリーニ独特の幻想的な世界観と、シュールなユーモアが満載の作品となっています。

第3話『仕事中』は、ルキノ・ヴィスコンティ監督作品。ヴィスコンティ監督の繊細で洗練された演出と、社会への鋭い洞察力が光る作品です。

第4話『くじ引き』は、ヴィットリオ・デ・シーカ監督作品で、脚本はザヴァッティーニ自身の手によるものです。デ・シーカ監督ならではの、人間味あふれる描写が印象的な作品です。

『ボッカチオ'70』は、単なるオムニバス映画という枠を超え、イタリア映画の黄金時代を象徴する作品として、高い評価を受けています。それぞれの短編は独立した作品として成立しながらも、全体として統一感のある作品に仕上がっており、監督たちの卓越した演出力と、豪華な俳優陣の演技、そしてそれぞれの個性的な脚本が三位一体となって、観る者に忘れられない感動を与えてくれるでしょう。

日本での公開状況も、この映画の複雑な歴史を物語っています。当初は一部作品が未公開だったこと、完全版が公開されるまで時間を要したことなど、その過程を知ることで、この作品への理解はさらに深まるでしょう。

イタリア映画史に残る名作として、そして、現代社会における人間と愛のあり方を問いかける不朽の名作として、『ボッカチオ'70』は、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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