ボナンノ・ピサーノ

ボナンノ・ピサーノ（Bonanno Pisano, または Bonanno da Pisa）は、12世紀後半にイタリアのピサを中心に活動した彫刻家です。彼の作品は、ビザンティン美術と古典古代美術の要素を巧みに組み合わせた独特のスタイルが特徴です。1170年代から1180年代にかけて、ピサの美術界で重要な役割を果たしました。

ピサーノの生涯について詳しい記録は多くありませんが、彼の作品を通して、当時の美術動向をうかがい知ることができます。ピサで没した後、遺体はピサの斜塔の麓に葬られました。1820年に、その石棺が発見されたことは、彼の存在を今に伝える貴重な証拠となっています。また、美術史家ジョルジョ・ヴァザーリの著書『画家・彫刻家・建築家列伝』では、ピサーノがピサの斜塔の設計者であるとされていますが、実際には彼が設計に関わったかどうかは定かではありません。

彼の代表作として特に有名なのは、ピサ大聖堂とモンレアーレ大聖堂の青銅扉です。

ピサ大聖堂のサン・ラニエリの扉

ピサ大聖堂の右翼廊に位置するサン・ラニエリの扉は、1186年から制作された青銅製の扉です。この扉には、キリストの生涯がテーマとして描かれており、当時の宗教観や美術様式を知る上で貴重な資料となっています。ピサーノは、この扉で、その卓越した技術と芸術性を発揮しました。また、ピサ大聖堂では、正面扉も製作しましたが、こちらは1595年に発生した火災で焼失してしまい、現存していません。

モンレアーレ大聖堂の青銅扉

シチリアのモンレアーレ大聖堂にある青銅扉も、ピサーノの代表作の一つです。1185年から1186年にかけて制作されたこの扉には、旧約聖書から新約聖書に至るまでの様々な場面が描かれており、物語を視覚的に伝えるための優れた構図や表現が見られます。この作品を通して、当時の人々の聖書に対する理解や信仰心を垣間見ることができます。

ボナンノ・ピサーノの作品は、単なる装飾的な役割だけでなく、当時の人々の信仰や生活を反映した重要な文化財です。彼の作品は、現在でも多くの美術愛好家や研究者から注目を集めており、中世イタリア美術史において重要な位置を占めています。

参考文献

Antonio Milone, "Bonanno Pisano", in Artifex bonus, page 82-89, Roma-Bari 2004.

もう一度検索