ボブ・センプル戦車

ボブ・センプル戦車：ニュージーランドの苦肉の策

第二次世界大戦下、ニュージーランドは外部からの支援を期待できない状況にありました。日本軍の侵攻という現実的な脅威に直面し、国民は自国の防衛手段を模索しました。その産物の一つが、公共事業大臣ボブ・センプルによって設計された「ボブ・センプル戦車」です。

逼迫した状況下での開発

この戦車は、既存の軍用装備品の不足という切迫した状況から生まれました。イギリスからの支援に頼ることは困難となり、国内に装甲戦闘車両生産の設備もありませんでした。そこで、入手可能な資材を活用して戦車を製造するという、まさに「苦肉の策」として開発が開始されたのです。

トラクターをベースとした簡素な設計

設計にあたっては、既存のキャタピラー・モデル35トラクターをベースに、鉄板を溶接して装甲を施すという簡素な方法が採用されました。公式な設計図や計画はなく、ボブ・センプルと工場技師のTGベックが、創意工夫と試行錯誤を繰り返しながら、この戦車を完成させました。

製造には、公共事業省が保有していたD8トラクターが活用されました。兵装は入手可能なブレン軽機関銃6丁が搭載され、車体側面、前面、銃塔、後部にそれぞれ配置されました。しかし、急ごしらえの設計と資材不足のため、装甲は貧弱で、車両は非常に高くて不安定、しかも重量は20～25トンにも達しました。また、トラクターをベースにしているため、速度も遅く、ギアチェンジにも時間がかかりました。

期待と現実の乖離

ボブ・センプル戦車は、3両が製作されました。当初の想定では、侵攻に備えて上部構造を各地に分散配置し、必要時にトラクターに取り付けて運用するというものでした。しかし、その性能は期待外れでした。重量と不安定性のため射撃精度も悪く、実戦投入は困難でした。多くの国民からは嘲笑の的となり、その運用計画はすぐに放棄されました。

そして歴史の片隅へ

ボブ・センプル自身は自らの設計を擁護しましたが、結局ボブ・センプル戦車は実戦配備されることなく、非実用性を理由に陸軍から廃棄されました。その歴史は、第二次世界大戦下のニュージーランドが抱えていた厳しい現実と、国民の創意工夫、そして技術的な限界を象徴する、一つのエピソードとして記憶されています。

ボブ・センプル戦車の諸元（推定）

全長: 不明
全幅: 不明
全高: 約3.5m
重量: 20～25トン
エンジン: キャタピラーD8トラクター搭載
武装: ブレン軽機関銃6丁
乗員: 8名

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参考文献

Cooke, Peter (2000). Defending New Zealand: Ramparts on the Sea 1840-1950s. Wellington: Defence of New Zealand Study Group.
Noonan, Rosslyn J. (1975). By Design: A brief history of the Public Works Department Ministry of Works 1870-1970. Wellington: Ministry of Works (Crown Copyright).
Bridges, Jon & Downs, David. No8 Wire: the best of Kiwi Ingenuity. Auckland, N.Z.: Hodder Moa Beckett, 2000
Keith, Haimish. New Zealand Yesterdays: a look at our recent past. Sydney, N.S.W.: Reader’s Digest Services, 1984.

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