センチネル巡航戦車

センチネル巡航戦車：オーストラリア独自開発の戦車

第二次世界大戦中、オーストラリア軍はヨーロッパ戦線での使用を想定し、独自の巡航戦車「センチネル」を開発しました。日本によるオーストラリア侵攻の懸念も、開発を推進する要因の一つでした。センチネルは鋳造による一体構造の車体を持ち、オーストラリアで量産された唯一の戦車という特徴があります。しかし、配備時には既にイギリスやアメリカ製の戦車が導入されていたため、実戦での使用はありませんでした。

開発の経緯

センチネルの開発は、1940年11月に試作案「AC I」から始まりました。初期の設計は、従来型の巡航戦車の設計思想に基づいていましたが、開発が進むにつれて、ドイツ軍の戦車に対抗できるよう、アメリカ軍の中戦車を参考に設計仕様が変更されました。

オーストラリア軍は、カナダ軍のラム巡航戦車のように、アメリカ製のM3中戦車のエンジンや走行装置、車体下部、砲塔などを活用することを検討しました。また、イギリス軍のクルセーダー巡航戦車の設計も参考に、一体構造の上部車体と砲塔を組み合わせる設計が採用されました。

1942年2月、AC Iは「センチネル」と命名され、同年8月にはシドニー近郊のチュローラ戦車製造会社で量産が開始されました。製造にあたっては、既存の部品を流用したり、オーストラリアの機械加工能力に合わせて部品を簡素化したりするなど、現実的な制約を考慮した工夫が凝らされました。

特に、車体と砲塔の一体鋳造は、当時の戦車製造技術においては画期的なものでした。主砲には当初、QF 2ポンド砲が搭載されましたが、後にQF 6ポンド砲への換装も計画されました。副兵装として2挺のヴィッカース機関銃が装備されました。

動力源には、プラット・アンド・ホイットニーR-1340やギバーソン製の星型エンジンが検討されましたが、オーストラリアでの入手が困難だったため、最終的には3基のキャデラックV8エンジンを組み合わせた、ペリエ-キャデラックと呼ばれる独自のエンジンが採用されました。これは、3基のキャデラックV8エンジンを組み合わせ、合計24気筒、排気量17.1Lという特異なものでした。このエンジンは、後のクライスラーA57マルチバンクエンジンと類似した構造を持っていました。

1943年6月までに、65輌のセンチネルが生産されました。

派生型とその後

センチネルの後継として、火力と防御力を向上させたAC III（サンダーボルト）が計画されました。AC IIIは、より強力なQF 25ポンド砲を搭載し、全周旋回可能な大型砲塔を備えていました。しかし、砲塔リングの径はAC Iと同じだったため、乗員の作業空間はやや狭くなっていました。

さらに、QF 17ポンド砲を搭載したAC IVも計画され、試作車が製造されました。この砲の反動は非常に大きかったため、当初は2門のQF 25ポンド砲を同時に発射する試験が行われたほどです。

完成したセンチネルは、実戦投入されることなく、評価や訓練用としてのみ使用されました。オーストラリアの巡航戦車計画は1943年7月に終了し、生産されたセンチネルは戦争終結まで倉庫に保管されました。

1943年には、オーストラリア軍第3戦車大隊が、映画「トブルクのネズミ」の撮影にセンチネルを使用しました。これが、センチネルが何らかの目的で使用された唯一の事例です。戦争後、ほとんどのセンチネルは解体・処分されましたが、現在でも数輌がオーストラリアやイギリスの博物館で保存されています。

残存車両

現在、以下の博物館にセンチネルの残存車両が展示されています。

オーストラリア陸軍戦車博物館（ビクトリア州）：AC I（シリアル番号8030）
ボービントン戦車博物館（イギリス）：AC I（シリアル番号8049）
オーストラリア戦争記念館（キャンベラ）：AC III（シリアル番号8066）
オーストラリア陸上兵器博物館（クイーンズランド州）：AC IV（シリアル番号8040）
オーストラリア陸上兵器博物館（クイーンズランド州）：AC I（シリアル番号8006）

登場作品

センチネルは、いくつかのゲームやアニメにも登場しています。

War Thunder
World of Tanks
ガールズ＆パンツァー最終章

まとめ

センチネルは、実戦には使用されませんでしたが、オーストラリアの戦車開発技術を示す重要な存在です。鋳造一体構造の車体や、独自の動力システムなど、多くの技術的特徴を持ち、その後の戦車開発にも影響を与えた可能性があります。現在でも残存する車両は、貴重な歴史遺産として大切に保存されています。

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