ボリス・カーロフ

ボリス・カーロフ(1887年11月23日 - 1969年2月2日)は、イギリスロンドン生まれ、アメリカで活躍した伝説的な俳優です。本名はウィリアム・ヘンリー・プラット。1909年カナダに移住し、カナダとアメリカで舞台役者を経て、1919年に映画界入りしました。サイレント映画時代から着実にキャリアを積み重ね、個性派俳優として頭角を現していきました。

1931年、彼の名を不朽のものとした作品『フランケンシュタイン』で、フランケンシュタインの怪物役を演じます。当初この役はベラ・ルゴシが演じる予定でしたが、台詞のない役を拒否したため、カーロフが代役として抜擢されました。この作品は世界的な大ヒットを記録し、ホラー映画史に燦然と輝く名作となりました。カーロフの重厚なメイクと演技は、怪物の恐怖と人造人間の悲しみを巧みに表現し、世界中の観客を魅了しました。あまりにもインパクトが強かったため、創造者である科学者の名前である「フランケンシュタイン」が、怪物そのものの名前として認識されるようになったほどです。

1932年には『ミイラ再生』で主演を務めます。本作では、ミイラ姿は冒頭のみで、その後は古代の高僧イムホテップとして人間の姿で登場し、彼の演技力と存在感を改めて印象づけました。この成功により、ホラー映画界のトップスターとしての地位を確固たるものにしたのです。同年には『暗黒街の顔役』にも出演。1934年の『黒猫』ではベラ・ルゴシと共演しますが、共演作『大鴉』『透明光線』などでも、カーロフが主導的な立場を保ちました。

1935年には『フランケンシュタインの花嫁』、1939年には『フランケンシュタインの復活』で再びフランケンシュタインの怪物役を演じますが、その後は役を降板。この役は後にロン・チェイニー・ジュニアや、当初拒否したベラ・ルゴシも演じることになります。1940年代前半には一時映画界を離れ、ブロードウェイで舞台に立つなど活躍の場を広げました。1944年の『フランケンシュタインの館』でシリーズに復帰するも、今度はマッドサイエンティスト・ニーマン博士役として出演しています。

第二次世界大戦後も、アメリカのみならずヨーロッパメキシコなど、世界各国で活躍を続けました。1950年代末以降の怪奇映画ブームには既に高齢でしたが、ヴィンセント・プライス、クリストファー・リー、若き日のジャック・ニコルソンらと共演し、ベテラン俳優としての存在感を示し続けました。晩年となる1968年には、ピーター・ボグダノヴィッチ監督の『殺人者はライフルを持っている!』に出演し、自身の俳優人生を投影したような怪奇俳優役を演じ切りました。1969年2月2日、イギリスのサセックス州で亡くなりました。

ベラ・ルゴシとの関係は、一種のライバル関係でした。ルゴシが当初フランケンシュタインの怪物役を断ったことが、カーロフの成功につながったという経緯があります。カーロフ自身は謙虚な人柄で、共演時にはルゴシに敬意を払っていたと伝えられていますが、ルゴシは晩年までカーロフの人気に嫉妬していたとされています。

しばしば、カーロフは『フランケンシュタイン』以前は無名俳優だったと記述されていますが、実際には1930年代ハリウッド映画で重要な役を演じており、脇役として高い評価を得ていました。「無名」という表現は正確ではありません。また、1957年のハマー・フィルム・プロダクションの『フランケンシュタインの逆襲』では、70歳のカーロフを怪物役に起用する案もあったそうですが、版権の問題で実現しませんでした。

ボリス・カーロフは、数々の名作ホラー映画に出演し、世界中の観客に恐怖と感動を与えた、真の映画界のレジェンドと言えるでしょう。彼の残した作品は、現在もなお人々を魅了し続けています。

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