ボリス・パッシュ

ボリス・パッシュ：情報将校の波乱万丈な生涯

ボリス・セオドア・パッシュ（1900年～1995年）は、20世紀を駆け抜けたアメリカ陸軍の情報将校です。ロシア生まれという異色の経歴を持ち、第二次世界大戦におけるアルソス・ミッションの指揮官として知られる一方、戦後はCIAにも深く関わった人物でした。その生涯は、数々の重要な出来事と謎に満ちたものとなっています。

複雑な生い立ちと若き日の活動

1900年、カリフォルニア州サンフランシスコでロシア人神父の子として生まれたパッシュは、ボリス・セオドア・パシュコフスキーという名前でした。幼少期はアメリカで過ごしましたが、1912年には家族と共にロシアへ帰国。十月革命下の混乱期には、白色海軍兵士として黒海で活動し、英語の通訳を務めた経験も持ちます。この功績から聖ゲオルギー十字章を受章しています。革命後の1920年、彼はアメリカへ亡命。ベルリンで働きながら、1923年に家族と共にアメリカへ移住し、アメリカ国籍を取得しました。その後、彼はパシュコフスキーからパッシュへと改名。スプリングフィールド大学で体育学士号を取得し、ハリウッド・ハイスクールで教員として勤めながら、南カリフォルニア大学で理学修士号を取得するなど、教育者として、また学問への探求心を持ち合わせていました。

軍における情報活動

陸軍予備役を経て1940年に現役へ編入されたパッシュは、防諜主任として重要な任務を担います。1942年にはメキシコにおける日本軍の拠点の可能性を調査するためバハ半島へ派遣。また、カリフォルニア大学放射線研究所におけるソ連スパイ疑惑の調査にも参加し、ロバート・オッペンハイマー博士を含む職員の尋問を行いました。パッシュはオッペンハイマーの関与を疑いつつも、彼の社会的立場を考慮し、マンハッタン計画からの排除は推奨せず、監視要員配置にとどめました。

しかし、彼の最も有名な功績はアルソス・ミッションの指揮にあります。これはナチス・ドイツの核兵器開発計画を阻止するための極秘作戦で、ドイツの核開発に関わった科学者や研究資料の確保に成功しました。このミッションにおける活躍は、彼の情報将校としての能力の高さを如実に示しています。

戦後とCIA、そして晩年

戦後もパッシュの情報活動は続きます。ダグラス・マッカーサー将軍の下で日本に勤務し、CIAに派遣された際には、暗殺や誘拐といった極秘工作に関与したとされています。1975年のチャーチ委員会では、これらの関与を裏付ける証拠は見つかりませんでしたが、この点については謎めいた部分も残ります。その後も、グリンベレー作戦将校や陸軍の情報参謀長補代理などを歴任し、1957年に陸軍を退役します。退役後も軍属として勤務を続け、1963年に完全に退職するまで、様々な役職をこなしました。

1980年には回顧録『The Alsos Mission』を出版。1988年にはアメリカ軍情報部殿堂入りを果たします。陸軍殊勲章、レジオン・オブ・メリット勲章、大英帝国勲章など数々の栄誉を受け、1995年にカリフォルニア州で亡くなりました。彼の残した論文は、スタンフォード大学フーヴァー研究所に保管されており、現在も研究対象となっています。

パッシュが残した謎

パッシュの生涯は、その複雑さゆえに様々な憶測を呼びます。特にCIAにおける活動については、未だに明らかになっていない部分が多く、歴史家の間で議論が続いています。彼の行動は、常に国家の安全と秘密を守ること、そして彼の信念に沿ったものであったと考えられますが、その真相は、これからも研究者たちによって解き明かされていくのでしょう。多様な経験と複雑な経歴を持つ彼の生涯は、国家の安全保障と情報戦の歴史を紐解く上で重要な存在であると言えるでしょう。

もう一度検索