ポイント・オブ・ディパーチャー

ポイント・オブ・ディパーチャー

『ポイント・オブ・ディパーチャー』（Point of Departure）は、アメリカ合衆国のジャズ・ピアニスト兼作曲家、アンドリュー・ヒルが率いるセクステット（六重奏団）によって、1964年に録音され、1965年に名門ブルーノート・レコードから発表されたスタジオ・アルバムです。アンドリュー・ヒルの数ある作品の中でも特に高い評価を受け、彼の代表作として広く認知されています。

このアルバムの録音には、当時のジャズシーンを牽引していた錚々たるミュージシャンが集結しました。アルト・サクソフォーン、フルート、バスクラリネットを担当したエリック・ドルフィー、テナー・サクソフォーンのジョー・ヘンダーソン、トランペットのケニー・ドーハム、ベースのリチャード・デイヴィス、そしてドラムスのトニー・ウィリアムスといった面々です。

特に、ドルフィー、デイヴィス、ウィリアムスは、本作の録音が行われる約1ヶ月前の1964年2月25日に録音された、ドルフィーのブルーノートにおける唯一のリーダー作であり、ジャズ史に残る傑作とされる『アウト・トゥ・ランチ』にも参加していました。この豪華なリズム・セクションが、本作でも再び顔を揃えたことは特筆に値します。

アンドリュー・ヒル自身は、当時若干18歳ながら驚異的なドラム演奏を披露したトニー・ウィリアムスの参加について、「トニー・ウィリアムスがいてくれたおかげで、リズム面での自由度が格段に増した」と語っており、彼のリズムに対する貢献が作品に与えた影響の大きさをうかがわせます。

また、テナー・サクソフォーン奏者については、当初チャールス・ロイドの起用が検討されていましたが、最終的にはジョー・ヘンダーソンが参加することになりました。興味深いことに、アンドリュー・ヒルは以前、ヘンダーソンのリーダー・アルバム『アワ・シング』にサイドマンとして参加した経験があり、これが彼がブルーノートでリーダー作を録音するきっかけとなったと言われています。

作品は発表以来、批評家から絶賛されてきました。音楽レビューサイト「オールミュージック」の評論家Thom Jurekは、このアルバムに満点の5点を与え、「ピアニスト/作曲家のアンドリュー・ヒルの作品の中でも、この録音はおそらく最もよく知られており、それは当然の出来栄えである」と高く評価しました。さらに、「21世紀になった今でも、この作品はジャズの未来を示す指針となっている」と述べ、その革新性と時代を超えた重要性を強調しています。ヒルの独特な作曲スタイルと、参加ミュージシャンたちの自由奔放かつ緊密なインタープレイが融合したサウンドは、当時のジャズの常識を打ち破るものであり、フリージャズの要素を取り入れつつも、明確な構成美を持つ独自の音楽世界を確立しています。

オリジナルLP盤には、全てアンドリュー・ヒルによって作曲された以下の5曲が収録されました。

1. リフュージ (Refuge)
2. ニュー・モナスタリー (New Monastery)
3. スペクトラム (Spectrum)
4. フライト19 (Flight 19)
5. デディケイション (Dedication)

1988年にブルーノートからリリースされた再発CD（品番: CDP 7 84167 2）には、オリジナル収録曲に加え、「フライト19」と「デディケイション」の別テイクがボーナス・トラックとして追加収録され、この歴史的なセッションの全貌をより深く知ることができるようになっています。

参加ミュージシャンは以下の通りです。

アンドリュー・ヒル (Andrew Hill) - ピアノ
エリック・ドルフィー (Eric Dolphy) - アルト・サクソフォーン、フルート、バスクラリネット
ジョー・ヘンダーソン (Joe Henderson) - テナー・サクソフォーン
ケニー・ドーハム (Kenny Dorham) - トランペット
リチャード・デイヴィス (Richard Davis) - ベース
トニー・ウィリアムス (Tony Williams) - ドラムス

『ポイント・オブ・ディパーチャー』は、アンドリュー・ヒルの創造性が遺憾なく発揮された傑作であると同時に、1960年代ジャズにおける挑戦的な精神と、当時最高のプレイヤーたちが生み出した奇跡的なアンサンブルを記録した、不朽の作品としてジャズファンに聴き継がれています。

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