ポライモス(Porajmos)
ポライモスとは、第二次世界大戦中にナチス・
ドイツをはじめとする
枢軸国が実施した
ロマ民族に対する絶滅政策を指します。
ロマ語で「絶滅」や「破壊」を意味し、ナチスによる
人種的な迫害の中で特に
ロマは深刻な被害を受けました。
背景と経緯
ヒトラー
政権下では、
ロマ及び
ユダヤ人が「
人種に基づく
国家の敵」とされ、
ニュルンベルク法によりその地位が決定づけられました。
ロマの犠牲者数は推計で22万人から150万人に上るとされますが、実際の数はさらなる過小評価があるという指摘もあります。イアン・ハンコック氏は
クロアチアや
オランダなどでほぼ全ての
ロマが殺害されたことを指摘しています。
また、ルドルフ・ラムル
名誉教授は、ナチス・
ドイツは約25.8万人、
ルーマニア王国約3.6万人、
クロアチア約2.7万人が
ロマとしての迫害を受けたとしています。このその他にも
アメリカ合衆国ホロコースト記念博物館は、殺害された
ロマの推計が22万から50万人に達するとしています。
「ポライモス」という語の誕生
「ポライモス」という語が使われるようになったのは
1990年代初頭からです。イアン・ハンコック氏がこの語を自著で使用したことがきっかけとされ、以降、
ロマへの
大量虐殺に関する議論の中でこの語が広まることになります。しかし、
ロマ自身にはこの語が知られていない場合が多く、活動家の間でますます用いられる用語となっています。
反ロマ政策と苦難
19世紀末から20
世紀初頭にかけて、
人種に関連する
疑似科学が
ドイツで流行し、それが
ロマに対する差別を正当化する根拠となりました。
近代化に伴い、
ロマの伝統的な生活様式は否定され、社会から疎外される結果となりました。特に、
ドイツ帝国とヴァイマル共和国の時代には、
ロマに対する
法律や条例が施行され、それによって移動の自由が制限されました。
ナチス政権下の残虐行為
ヒトラー
政権が成立する前から困難な状況は続いていましたが、
1933年以降、ナチスは
ロマに対して更なる虐待を強化。例えば、
1935年に導入された
ニュルンベルク法では、
ロマは「非
アーリア人」に分類され、様々な権利が剥奪されました。
1936年には自治体立収容所が設立され、
ロマは
絶滅収容所に送られることになりました。
このように、ナチスによる
ロマに対する迫害は
国家的な方針となり、完全に排除されることを
目的とした計画が実行に移されました。
国外での状況と記録
第三帝国の侵略を受けた国々でも、同様に
ロマに対する迫害が行われました。特に、
ウスタシャ政権が支配する
クロアチアでは、数万人の
ロマが殺害され、
スロバキアや
ハンガリーでも
ロマ系住民が大規模に国外追放されました。
こうした事件は戦後も認識されず、
ロマの
ホロコーストについての認識は極めて低いものでした。
ドイツ連邦共和国においても、
ロマの迫害は長らく
人種に基づくものとは見なされず、それに対する補償や救済活動はほとんど行われませんでした。
追悼と今後の認識
近年、
ロマの
ホロコーストに関する認識は高まりつつあり、追悼のための碑や記念施設も設けられています。特にアウシュヴィッツには
ロマのための追悼碑が設置され、多くの人々が訪れるようになっています。
トラヤン・バセスク
ルーマニア大統領が
2007年に
ロマに対する公式謝罪を行った事例や、追悼式典で
ロマの生存者が参加したことは、過去の悲劇を忘れないための重要なステップといえるでしょう。また、
ロマに関連する映画や文献が増えてきたことも、その歴史の認識を深める要因となっています。
このように、ポライモスは非常に重要な歴史的事例であり、今後もその認識を広め、未来の教育にも生かしていくべきでしょう。