ポラリス ドーン

ポラリス ドーン

ポラリス ドーンは、Shift4社のCEOジャレッド・アイザックマン氏が資金援助する「ポラリス計画」の第一弾として実施された、画期的な民間有人宇宙飛行ミッションです。スペースXのクルードラゴン宇宙船「レジリエンス」を使用し、アイザックマン氏を含む計4名のクルーが搭乗しました。

ミッションの概要と主な達成

このミッションは、単なる商業宇宙旅行に留まらず、民間宇宙飛行におけるいくつかの重要なマイルストーンを打ち立てることを目的としていました。

1. 史上最高高度への到達: 地球から最大1,400キロメートルという遠地点を持つ長楕円軌道に投入されました。これはアポロ計画以来、人類が到達した最も高い高度であり、ヴァン・アレン帯の一部を通過しながら宇宙放射線や宇宙飛行が人体に与える影響に関する貴重なデータ収集を行いました。
2. 初の商業宇宙遊泳: ミッション中に、アイザックマン氏とクルーの一員であるサラ・ギリス氏が、史上初の商業宇宙遊泳（Extravehicular Activity, EVA）を実施しました。これは、民間人が開発した宇宙服を使用し、民間の宇宙船から宇宙空間へ出るという、新たな時代の幕開けを示す出来事となりました。

樹立された記録

ポラリス ドーンは、その他にも数々の記録を達成しました。

クルーのアンナ・メノン氏とサラ・ギリス氏は、女性宇宙飛行士として史上最高の高度に到達しました。
サラ・ギリス氏（30歳）は、史上最年少での宇宙遊泳達成者となりました。
エアロックを持たないクルードラゴンの特性上、宇宙遊泳時にはクルー全員が宇宙の真空に晒されました。これにより、「同時に宇宙の真空に暴露された人数」の新記録（4人）を樹立しました。
同時期に軌道上に滞在していた他のミッション（ISS、中国の宇宙ステーションなど）のクルーと合わせ、同時期に宇宙空間にいた人数としては史上最多記録（19人）の一翼を担いました。

技術的な挑戦と開発

本ミッションの準備過程では、いくつかの重要な技術開発が必要とされました。

民間用EVAスーツ: スペースXは、従来の船内活動服（IVAスーツ）をベースに、民間宇宙飛行士が船外活動を行うための新しいEVAスーツを開発しました。これは、加圧下でも高い可動性を持ち、打ち上げ・帰還時にも着用できる汎用性の高い設計となっています。
ドラゴン宇宙船の改修: クルードラゴンには通常エアロックがありません。船外活動を実現するため、ドッキングポート部分を「スカイウォーカー」と呼ばれる機械的なサポート付きのハッチに換装するなどの改造が施されました。また、EVA中の生命維持機能は、スーツに内蔵ではなく、初期の宇宙服のように宇宙船本体から供給されるアンビリカル方式が採用されました。
* スターリンクレーザー通信: 宇宙船と地上の通信に、スターリンク衛星を介したレーザー通信リンクを使用する初の有人運用試験も行われました。これにより、通信遅延の短縮やデータ帯域幅の拡大が期待されています。

ミッションの進行

当初2022年後半が目指されていた打ち上げは、EVAスーツの開発や技術試験の遅れ、さらには度重なる天候の問題により延期を重ねました。最終的に、2024年9月10日、スペースXのファルコン9ロケットによりフロリダのケネディ宇宙センターから無事打ち上げられました。

軌道投入後、クルーは宇宙遊泳に備えた減圧プロトコルを開始し、船室の気圧を段階的に下げました。飛行初日には最高高度に到達し、放射線被ばくや人体影響に関する研究を開始。飛行2日目は実験を行いながらEVAの準備を進めました。飛行3日目には、4名全員が与圧されたEVAスーツを着用した状態で、ハッチを開放して初の商業宇宙遊泳が実施されました。

約5日間のミッション期間中、クルーは高高度環境での科学実験や新技術の実証を精力的に行いました。ミッションの終盤には軌道離脱のための燃焼を実施し、2024年9月15日、メキシコ湾への着水をもって無事地球へ帰還しました。

乗組員

ミッションを率いるのは、指揮官のジャレッド・アイザックマン氏です。元空軍パイロットのスコット・ポティート氏が宇宙船操縦士を務めました。ミッションスペシャリストとして参加したのは、スペースXの従業員であるサラ・ギリス氏とアンナ・メノン氏です。ギリス氏は商業宇宙遊泳を担当し、メノン氏はバイオメディカル運用管制官としての経験を活かし、機内医療担当官を務めました。

ポラリス ドーンは、民間による宇宙探査と開発の可能性を大きく広げる、歴史的な一歩となりました。

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