ポリテトラフルオロエチレン

ポリテトラフルオロエチレン（PTFE）のすべて

ポリテトラフルオロエチレン（PTFE）は、テトラフルオロエチレンの重合体であるフッ素樹脂の一種です。一般的には「テフロン」という商品名で広く知られており、その優れた耐熱性、耐薬品性、非粘着性から、私たちの生活に欠かせない物質となっています。

PTFEの発見と歴史

PTFEは1938年、アメリカのデュポン社の研究者ロイ・プランケットによって偶然発見されました。クロロフルオロカーボン類の研究中に、テトラフルオロエチレンのボンベ内で予想外の固体物質が生成されているのを発見したのです。この物質こそがPTFEでした。

デュポン社は1941年にPTFEの特許を取得し、当初は戦車への撥水コーティング剤として使用されました。しかし、溶融成形が難しく、高価だったため、本格的な普及には至りませんでした。

PTFEが広く注目を集めるようになったのは、マンハッタン計画への貢献がきっかけです。核燃料製造過程で発生する腐食性の高いガスを安全に取り扱うために、設備のパッキンやライニング材としてPTFEが使用され、原子爆弾開発に重要な役割を果たしました。

第二次世界大戦後、デュポン社は1945年にPTFEを「テフロン」として商標登録し、徐々に民生用への応用が進みました。1947年にはテフロン塗料が販売開始され、1960年にはテフロン加工のフライパンが登場するなど、私たちの生活に浸透していきました。現在では、デュポン社のフッ素樹脂全般を指す名称にもなっていますが、一般的にはPTFEのことを指すことが多いです。

PTFEの用途

PTFEは、その優れた特性から様々な分野で利用されています。最も身近な例としては、フライパンや鍋などの調理器具へのコーティングです。非粘着性と耐熱性により、焦げ付きを防ぎ、調理を容易にします。

その他にも、電気機器、化学機械、半導体製造など、多岐にわたる用途があります。具体的には、チューブ、ホース、シート、パッキン、絶縁材、添加剤など、様々な製品に使用されています。特に、フッ化水素酸にも溶けないことから、フッ化水素酸の運搬や貯蔵にも不可欠な素材です。

PTFEの性質

PTFEは、耐熱性、耐薬品性に優れ、非常に低い摩擦係数を持ちます。しかし、加熱による溶解成形ができないという欠点もあります。そのため、粉末の圧縮加温によって成形が行われます。このため、溶解成形可能な他のフッ素樹脂も開発されています。

また、PTFEは放射線の影響を受けやすく、重合度が低下して脆くなる可能性があります。これは放射性物質の取り扱いにおいては問題となりますが、一方で、新たな加工法の開発にも繋がっています。

化学的に非常に安定なPTFEですが、高温の溶融アルカリ金属やフッ素系ハロゲン間化合物には徐々に侵される可能性があります。

PTFEの安全性

PTFE自体は化学的に不活性で毒性はありません。しかし、約260℃以上で劣化が始まり、350℃以上で分解し、有毒ガスが発生する可能性があります。このガスを吸入すると、インフルエンザのような症状を引き起こす可能性が報告されています。

調理器具に使用されているPTFEコーティングの場合、空焚きなどによって高温になり、劣化や分解が起こる可能性があります。通常調理ではそこまで高温になることは少ないですが、注意が必要です。

1959年の研究では、空焚きによる煙の毒性は調理油の煙よりも低いとされましたが、小鳥などの小動物には危険であるため、飼育環境下では使用を避けるべきです。

PFOA問題

かつて、PTFEコーティングの際にペルフルオロオクタン酸（PFOA）が使用されており、発がん性物質の可能性が指摘され、社会問題となりました。デュポン社は訴訟などを経て、2015年以降PFOAの製造をほぼ停止し、全世界的に使用が禁止されました。現在の調理器具には、PFOAは使用されていません。

PTFEの生産者

PTFEは、AGC、ダイキン工業など日本の企業や、3M（製造中止）、Chemours社など世界中の企業によって生産されています。ロシアのHalopolymer社は、原料の蛍石からPTFEまでを一貫生産する大規模メーカーとして知られています。

まとめ

PTFEは、その優れた特性から幅広い分野で活用されている重要な物質です。安全性に関する懸念事項も存在しますが、適切な使用方法を守れば、安全に利用できます。これからも、PTFEは私たちの生活を支える重要な役割を果たし続けるでしょう。

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