ペルフルオロオクタン酸

ペルフルオロオクタン酸（PFOA）の概要

ペルフルオロオクタン酸（PFOA、別名：C8）は、炭素とフッ素の結合からなる、強力な界面活性作用を持つ化学物質です。その分子構造は、炭素鎖の全ての水素原子がフッ素原子に置き換わった、完全フッ素化された直鎖状のカルボン酸です。このフッ素化によって、非常に高い耐熱性、耐光性、化学的安定性を持ち、水にはほとんど溶けません。

PFOAの性質と合成

PFOAは、水への溶解度が非常に低く（25℃で9.5μg/L）、一般的なオクタン酸と比較して高い界面活性能を有します。これは、炭素-フッ素結合の高い結合エネルギーによるものです。この結合の強さから、PFOAは生分解されにくく、環境中や生物体内に長期間残留する性質があります。

PFOAは、フッ素テロマーを原料としたテロメリゼーションという化学反応によって合成されます。体内での半減期は約4.3年とされており、類似物質であるペルフルオロオクタンスル[[ホン酸]]（PFOS）の半減期（約8.7年）に比べると比較的短く、体内からの排出は速いといえます。しかしながら、それでも環境中での長期間の残留は懸念材料です。

PFOAの用途

かつて、PFOAは、様々な工業製品の製造に利用されてきました。主な用途として、

ポリテトラフルオロエチレン（PTFE、テフロン）の製造における添加剤
塗料のレベリング剤（塗膜の平滑性を向上させる）
水性膜形成泡消火剤
各種界面活性剤

などが挙げられます。

環境問題と規制

PFOAは、環境中への残留性が高く、生物濃縮を起こす可能性があるため、環境汚染物質として大きな問題となっています。2000年頃、3M社が世界各地の野生生物から高濃度のペルフルオロオクタンスル[[ホン酸]]（PFOS）を検出したことを公表し、類似構造を持つPFOAについても、同社は2002年に製造を中止しました。

その後も、デュポン社など一部企業ではPFOAの製造と使用が継続されてきましたが、世界各国でその環境影響や人体への影響に関する調査が進められ、深刻な懸念が生じています。アメリカ合衆国環境保護庁（EPA）は2006年、フッ素樹脂メーカーに対しPFOA排出量の削減を要請し、2015年までの排出量ゼロを目指した規制を実施しました。現在では、ストックホルム条約においても規制対象となっています。

まとめ

PFOAは、その高い界面活性と安定性から様々な用途に使用されてきた化学物質ですが、環境への残留性と人体への潜在的なリスクが深刻な問題となっています。現在では、世界規模で製造と使用が規制されており、環境保全の観点から、その代替物質の開発と使用が求められています。今後の研究により、PFOAの環境動態や人体への影響に関する理解がさらに深まることが期待されます。継続的なモニタリングと適切な規制によって、PFOAによる環境汚染と健康被害を最小限に抑える取り組みが重要です。

参考文献

* 国際化学物質安全性カード ペルフルオロオクタン酸 (ICSC:1613) 日本語版(国立医薬品食品衛生研究所による), 英語版

もう一度検索