ポリビニルアルコール

ポリビニルアルコール：その性質、歴史、そして多様な用途

ポリビニルアルコール(PVA)は、優れた親水性を持ち、温水に溶解するという特異な性質を持つ合成樹脂です。その略号はPVAL、PVOH、そして日本で広く使われるポバールなど、いくつか存在します。PVAという略号はポリ酢酸ビニルとも共通するため、注意が必要です。

PVAの合成と性質

PVAは、示性式(−CH2CH(OH)−)nで表されるように、ビニルアルコールの重合体のように見えます。しかし、ビニルアルコール単体では不安定なため、実際には酢酸ビニルを重合させた後、鹸化という化学反応によって合成されます。この過程で多くのヒドロキシ基(−OH)が分子内に導入され、その結果、合成樹脂としては珍しい温水への溶解性という特性が生まれます。このヒドロキシ基の存在が、PVAの多様な機能性を支えています。

PVAの歴史：日本における発展

PVAは1924年、ドイツの研究者によって発明されました。日本においては1939年、桜田一郎氏らの研究グループが、PVAを原料とするビニロン繊維の開発に成功したことが大きな転換点となりました。その後、1949年には日本合成化学工業が「ゴーセノール」の商品名でPVAの生産を開始し、1950年にはクラレがビニロン繊維の生産を開始しました。クラレは1958年には「クラレポバール」の商品名でPVAの販売を開始、日本のPVA工業は1960年代には世界をリードするまでに発展しました。現在では、クラレ、日本合成化学工業、デンカ、信越[[化学工業]]、積水化学工業などが主要メーカーとして活躍しています。ちなみに「ポバール」という略称は、クラレ社内で使用されていたものが高分子学会によって正式に認められたものであり、アルコールが酒類の密造と誤解されるのを避けるためという説があります。

PVAの反応と用途

PVAはヨウ素液と反応して赤～青色の呈色反応を示します。これはヨウ素分子がPVAの螺旋構造に入り込むためです。

その優れた親水性と様々な反応性を活かし、PVAは実に幅広い用途に用いられています。代表的なものとしては、接着剤、バインダー、洗濯のり、離型剤、医薬品の結合剤、界面活性剤などがあります。エマルジョン系接着剤の乳化剤としても広く利用され、ビニロン繊維や偏光フィルムの原料としても重要です。日常では、液状のり（アラビックヤマト、オーグルーなど）や、裏のり式切手にも使用されています。

近年では、その用途はさらに広がりを見せています。例えば、ジェルボールやシート状洗剤の水溶性フィルム、水田用除草剤のジャンボ剤、芳香洗浄剤の外装フィルムなど、私たちの身近な製品にも多く利用されています。また、文化財の修復においても、古い絵画の剥離防止コートとして用いられてきましたが、経年劣化による再剥離や白化が課題となっていました。しかし、近年では分解酵素による除去方法が開発され、この問題も解決しつつあります。

さらに、近年注目されているのが、医療分野への応用です。2019年には、白血病治療における造血幹細胞培養液の成分として、牛由来血清アルブミンの代替として有用であることが研究で示されました。また、2020年には、がん治療におけるホウ素中性子捕捉療法において、薬剤の滞留時間を長くし治療効果を高める効果が確認されています。これらの研究成果により、PVAは再生医療やがん治療のコスト削減にも貢献すると期待されています。

スライムの材料や、シャボン玉を丈夫にするための添加剤としても使用されるなど、その用途は多岐に渡り、私たちの生活に密着した重要な物質と言えるでしょう。

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