ポリマー紙幣

ポリマー紙幣とは

ポリマー紙幣は、二軸延伸ポリプロピレン（BOPP）を主原料としたフィルム状の合成樹脂を使用した紙幣です。従来の紙幣とは異なり、プラスチック紙幣とも呼ばれています。この新しいタイプの紙幣は、オーストラリア準備銀行（RBA）とオーストラリア連邦科学産業研究機構（CSIRO）の共同開発により、1988年にオーストラリアで初めて発行されました。現在では、40カ国以上で製造・流通しています。

従来の紙幣との違い

従来の紙幣は、麻や綿などを原料とした紙が使われてきました。しかし、これらの素材は偽造が比較的容易であるため、世界中で偽造紙幣による問題が発生していました。ポリマー紙幣は、このような偽造問題を解決するために開発されました。ポリマー紙幣の主な特徴は以下の通りです。

偽造防止機能の向上：ポリマー用紙の製造には高度な技術が必要であり、透明な素材であるため、透かしなどの高度な偽造防止技術を容易に組み込むことができます。また、ホログラムや安全線などの技術も導入され、偽造抵抗力が飛躍的に向上しました。
耐久性の向上：ポリマー紙幣は、非繊維質かつ非多孔性の素材でできているため、破れにくく、撥水性があります。そのため、水で洗うことができ、汚れにも強いという特徴があります。また、紙幣自体の耐久性が高いため、耐用年数が長く、再利用も可能です。これにより、製造コストは高いものの、結果的に紙幣の寿命が長くなるため経済的です。

ポリマー紙幣の課題

ポリマー紙幣には、いくつかの課題も存在します。

生産コスト：紙の紙幣に比べて生産コストが高くなります。
熱や薬品への弱さ：100℃以上の熱にさらされると縮んだり溶けたりする可能性があります。また、アルコールや硝酸などの薬品に触れると、印刷部分が剥がれたり薄くなったりする可能性があります。
取り扱いの難しさ：従来の紙幣とは手触りが異なり、一度折り目やシワがつくと元に戻りにくいという特徴があります。そのため、現金自動支払機や紙幣識別機での取り扱いには特別な技術が必要となります。
環境への影響：耐久性が高くリサイクルしやすいとされていましたが、近年では二酸化炭素の排出量が紙の紙幣よりも多いという研究結果も出てきています。

歴史

世界で最初に紙以外の素材を使用した紙幣は、デュポンが開発したポリエチレン繊維による合成紙（タイベック）でした。1980年代前半には、コスタリカとハイチでタイベック製の紙幣が発行されましたが、印刷インクが熱帯の気候で溶け出すなどの問題があり、広く普及することはありませんでした。

現在見られるようなポリマー紙幣の研究は、1960年代にオーストラリアで始まりました。当時のオーストラリアでは、通貨偽造が多発しており、特にカラーコピー機の性能向上による偽造事件の増加が懸念されていました。そこで、RBAとCSIROは共同で、透明な合成樹脂フィルムに白いインクを印刷し、その上に保護膜をコーティングする技術を開発しました。この技術によって、1988年に世界初のポリマー紙幣となるオーストラリア成立200周年記念10ドル紙幣が発行されました。その後、1992年には初の一般流通用ポリマー紙幣である5ドル紙幣が発行されました。

現状

2024年現在、一般流通用としてポリマー紙幣を導入している国は40カ国を超え、過去の事例を含めると70カ国以上にもなります。しかし、コストや取り扱いの違いなどから、紙の紙幣に戻した国も存在します。

全券種をポリマー紙幣に置き換えた主な国は、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、イギリスなどです。一部の券種をポリマー紙幣に置き換えた国は、メキシコ、ベトナム、香港、シンガポールなど多数あります。

各国での導入事例は以下の通りです。

オーストラリア：1992年に全ての紙幣をポリマー紙幣に移行しました。
ニュージーランド：1999年に全ての紙幣をポリマー紙幣に置き換えました。
カナダ：2011年に全ての紙幣をポリマー紙幣に置き換えました。
イギリス：2016年から2021年にかけてポンド紙幣4種をポリマー紙幣に移行しました。

ポリマー紙幣は、偽造防止や耐久性に優れている一方で、生産コストや取り扱いの難しさなどの課題も抱えています。今後も技術の進歩によって、より使いやすく、環境負荷の少ないポリマー紙幣が開発されることが期待されます。

参考文献

植村峻『お札の文化史』NTT出版 1994年

外部リンク

世界の紙幣
Polymer Bank Notes of the World
CSIRO-Polymer banknote information sheet
Note Printing Australia
Securency

この情報は、2024年5月15日時点での最新情報に基づいています。

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