ポルシェ・907

ポルシェ907：空力性能を追求したレーシングマシン

ポルシェ907は、1967年に国際自動車連盟（FIA）のグループ6規定に基づき開発されたプロトタイプレーシングカーです。その開発背景には、ル・マン24時間レースといった主要レースでの勝利という明確な目標がありました。ポルシェは主力マシンとして910を擁していましたが、ル・マン制覇のため、907の開発に注力しました。

開発における工夫

907の開発においては、空力性能の向上が大きな課題でした。シュトゥットガルト工科大学やフォルクスワーゲン工場の風洞実験を繰り返し行い、徹底的な空力解析を実施。その成果は、ボディデザインに明確に表れています。

エンジンは、910と同様に1,991ccの6気筒と2,195ccの8気筒の2種類が用意されました。シャーシの基本構造は910を踏襲していますが、ル・マンを含む多くのサーキットが時計回りであることを考慮し、ステアリング位置が左側配置から右側配置へと変更されています。

ボディデザインは、高速走行に適したロングテールを前提に設計されました。906のロングテールよりも一体感のあるフォルムとなり、空気抵抗の低減に大きく貢献しています。ルーフは910よりも低く狭く、フロントガラスの傾斜も緩やかになっています。さらに、リアフェンダー上の吸気口を廃止し、テール後端のシュノーケル型ダクトからギアボックス冷却用の空気を吸入するシステムに変更。これらの改良により、910と比較して空気抵抗を14％削減することに成功し、ル・マンでは最高速度が約30km/h向上しました。

1968年には、ロングテールに加え、テクニカルコース向けに全長4,020mmのショートテールボディも開発されました。こちらは2,195ccの8気筒エンジンを搭載し、オイルクーラーの位置がノーズ先端付近に変更されています。

輝かしいレース戦績

907のレースデビューは、1967年4月のル・マン・テストデーでした。ル・マン24時間レースでは、6気筒エンジンの907/6が初の実戦投入。ジョー・シフェールとハンス・ヘルマンのペアが総合5位に入賞し、前年に続き「性能数値賞（Index of Performance）」を獲得しました。

1968年シーズンは、3リットルエンジンの908が登場するまでの間、8気筒エンジンの907/8がワークスチームの主力マシンとして活躍しました。シーズン開幕戦のデイトナ24時間レースでは、ロングテールボディの907が優勝を飾りました。ヴィック・エルフォードとヨッヘン・ニーアパッシュ組が、2位と3位も907という結果で、3台が並んでフィニッシュラインを通過する「デイトナフィニッシュ」を再現しました。

セブリング12時間レースからはショートテールを投入し、シフェール/ヘルマン組が優勝。タルガ・フローリオでは、ヴィック・エルフォードとウンベルト・マリオーリ組が逆転優勝を収め、ポルシェのメーカー3連覇に貢献しました。908の初優勝以降は、907は主にバックアップマシンとしての役割を担うようになりましたが、ル・マン24時間レースでは、プライベーターの907ロングテールがワークスの908を上回る2位を獲得するなど、その高いポテンシャルを示しました。

ポルシェ907は、空力性能の追求によって高い戦闘力を誇ったレーシングマシンとして、モータースポーツ史にその名を刻んでいます。その革新的な設計思想は、後のポルシェのレーシングカー開発にも大きな影響を与えました。

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