ポール・サンドビー

ポール・サンドビー

ポール・サンドビー（Paul Sandby RA, 1731年頃 - 1809年11月7日）は、18世紀のイギリスで活躍した、水彩画と版画を専門とする芸術家です。特に風景画の分野で重要な足跡を残しました。画家であった兄トーマス・サンドビーとともに、権威あるロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの創立メンバーの一人として名を連ねています。

生涯とキャリア

サンドビーはノッティンガムに生まれ、1731年に洗礼を受けた記録があります。彼の兄トーマス・サンドビーもまた画家でした。1745年、ポールは兄が活動していたロンドンに移り、イギリス陸軍の地図作成部門に職を得ます。同年に発生したジャコバイト蜂起の後、彼はワトソン大佐率いる隊に加わり、スコットランドのハイランド地方でジョージ砦へ向かう新たな補給ルートを調査するための測量業務に製図担当として従事しました。

この測量任務の傍ら、サンドビーはスコットランドの雄大な風景や当時の出来事を水彩で描き始めました。これが彼の芸術家としてのキャリアの重要な起点となります。

1751年に軍籍を離れた後、サンドビーは王室の狩猟場であるウィンザー・グレート・パークの管理者であった兄トーマスの元で時間を過ごします。ここで彼は兄の助手として働きつつ、近隣の城郭や街並みといった風景を精力的にスケッチしました。これらのスケッチは、同時代の著名な画家、例えばトマス・ゲインズバラからも高い評価を受けることとなります。

サンドビーは版画家としても多大な才能を発揮しました。1860年代には、自身の作品を基にした数多くの版画を出版しています。さらに、兄トーマスを含む他の画家たちの作品も版画として世に送り出しました。ウィリアム・ホガースのような有名な芸術家を風刺するカリカチュアなど、社会批評的な要素を含む風刺版画も偽名を用いて発表しており、その活動は多岐にわたります。

ウィンザーに滞在していた期間も、彼は毎年ロンドンを訪れていたとされています。1757年には結婚し、1760年からは正式にロンドンを活動拠点としました。1760年には、後にロイヤル・アカデミーの前身ともなる美術家集団「ソサエティ・オブ・アーティスツ」が開催した最初の展覧会の実現に貢献し、1768年にロイヤル・アカデミーが設立されるまで、この展覧会に作品を発表し続けました。

1768年には、彼は王立陸軍士官学校の絵画教師に任命され、1799年まで長きにわたり後進の指導にあたりました。また、同年12月に設立されたロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの創立メンバー28名の一人として名を連ねました。彼はアカデミーの理事をしばしば務め、1769年から1809年までのアカデミー展には、わずか8回を除き、ほぼ毎年作品を出展しています。生涯を通じて、アイルランドを含むイギリス各地を旅し、その土地の風景を丹念に描き続けました。

芸術的遺産

ポール・サンドビーは、イギリスにおける初期の水彩風景画の発展に決定的な影響を与えた人物の一人とされています。彼の精緻な水彩技術と風景に対する深い洞察は、後の世代の芸術家たちに大きな影響を与えました。また、版画においても多才さを見せ、特に地形図の正確さと芸術性を融合させた作品や、ユーモアと風刺に満ちた作品は、当時の社会や芸術界の一端を今に伝えています。彼の作品は、イギリス風景画史において欠かせない存在として、今日でも高く評価されています。

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