ポール・ヴェキアリ

ポール・ヴェキアリ：実験精神と自伝的要素が織りなす映画世界

ポール・ヴェキアリ（Paul Vecchiali, 1930年4月28日 - 2023年1月18日）は、フランスの映画監督、脚本家であり、その独特な作風で知られています。コルシカ島のアジャクシオで生まれ、幼少期をトゥーロンで過ごしました。家族は第二次世界大戦後、対ナチ協力の疑いをかけられ、街を離れることになりました。

若き日の活動と映画界への足跡

理工科学校を卒業後、1950年代には『ラ・ルヴュ・デュ・シネマ』や『カイエ・デュ・シネマ』といった映画雑誌で批評家として活動しました。1961年、31歳でドニ・エプスタンとの共同脚本による長編映画『Les Petits Drames』を発表し、映画監督としてのキャリアをスタートさせます。この作品では、無声映画でありながらも、憧れの女優ダニエル・ダリューを出演させることに成功しました。いくつかの短編映画制作を経て、1965年には『Les Ruses du diable（悪魔の詭計）』で商業映画デビューを果たしました。

製作会社設立と若手監督の育成

1970年代に入ると、ヴェキアリは「ユニテ・トロワ」と「ディアゴナール」という2つの製作会社を設立します。特に「ディアゴナール」は、彼の作品を安定的に供給する重要な役割を果たしました。また、ジャン＝クロード・ビエット、ジャン＝クロード・ギゲ、マリー＝クロード・トレユなど、多くの若手監督をデビューさせました。これらの監督たちは皆、ヴェキアリ作品で共同脚本や助監督、製作主任などを経験し、俳優としてもヴェキアリの作品に出演しています。「ヴェキアリ組」とも呼べる俳優たちが数多く存在し、「ディアゴナール」はまるで劇団や学校のような存在でした。

フランス映画界での確固たる地位と日本での知名度

フランスでは巨匠として不動の地位を築いているヴェキアリですが、日本では商業公開された作品は『薔薇のようなローザ』（1985年）のみで、『どうか温かいお気持ちを』（2004年）がわずかに紹介された程度です。日本ではまだ知られざる「カイエ派」の作家と言えるでしょう。

ヴェキアリ作品の特徴

ヴェキアリの作品は、1930年代のフランス映画からインスピレーションを受けており、実験映画のようなタッチと自伝的な要素が特徴です。彼は感情、空間、機動性を重視した映画作りを追求し、発明、サプライズ、矛盾といった要素を盛り込みました。エイズ、同性愛、バイセクシャル、ノンセクシャルなど、死や宗教、情熱といったテーマにも果敢に挑んでいます。ヴェキアリは、プロデューサー、文筆家、発見者、発明家としての顔も持ち、その多才ぶりを発揮しました。

ジャン・ユスターシュやジャック・ドゥミとの交流

ヴェキアリは、ジャン・ユスターシュ監督の初期作品をプロデュースし、ジャック・ドゥミ監督とも親交を深めました。また、ジャック・ドゥミのアイドルだったダニエル・ダリューを自身の作品で演出しました。

フランソワーズ・ルブランとの関係

女優フランソワーズ・ルブランは、ヴェキアリ作品に頻繁に出演しており、特に元恋人とのその後を描いた二部作『Trous de mémoire（記憶の穴）』（1984年）とその続編『À vot' bon cœur』（2004年）は、ヴェキアリの代表作の一つです。

フィルモグラフィー（一部）

ヴェキアリは数多くの作品を監督、脚本、プロデュースしています。以下に代表的な作品をいくつか紹介します。

監督作品
『Les Petits Drames』 (1961年)
『Les Ruses du diable（悪魔の詭計）』(1965年)
『L'Étrangleur（絞殺者）』(1970年)
『Femmes femmes（女たち、女たち）』(1974年)
『La Machine（機械）』(1977年)
『薔薇のようなローザ』(1985年)
『どうか温かいお気持ちを』(2004年)

プロデュース作品
ジャン＝クロード・ビエット監督『Le Théâtre des matières』(1977年)
ジャン＝クロード・ギゲ監督『Les Belles manières』(1979年)
マリー＝クロード・トレユ監督『Simone Barbès ou la vertu』(1980年)
ノエル・シムソロ監督『Cauchemar』(1980年)
クローディーヌ・ボリ監督『La Fille du magicien（マジシャンの娘）』(1990年)

晩年と遺産

2023年1月18日、ポール・ヴェキアリは92歳でその生涯を閉じました。彼の作品は、フランス映画史において重要な位置を占めており、その実験精神と独自の視点は、後世の映画監督たちに大きな影響を与え続けています。日本においては、その全貌がまだ十分に知られていませんが、今後、彼の作品がより広く紹介されることが期待されます。

その他

2005年には、エマニュエル・ヴェルニエール監督によって、ヴェキアリのドキュメンタリー映画『対角線（ディアゴナール）のかかったポール・ヴェキアリ』が制作されています。

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