マアッラト・アン＝ヌウマーン

マアッラト・アン＝ヌウマーン：シリア北西部の歴史都市

シリア北西部イドリブ県に位置するマアッラト・アン＝ヌウマーンは、アレッポとハマーを結ぶ交通の要衝にある小都市です。人口は約8万人。周囲には、地震や戦乱、交易路の途絶などによって放棄された古代都市の遺跡が点在しており、「デッド・シティーズ」として知られています。バラやセルジッラといった遺跡は特に有名で、歴史愛好家にとって魅力的な場所となっています。これらの遺跡群は、シリア北部の古村落群として世界遺産にも登録されています。

古代から現代まで続く歴史

マアッラト・アン＝ヌウマーンは、古くから様々な文化が交差する地として栄えてきました。ギリシャ時代にはアッラと呼ばれ、十字軍時代にはマッレと呼ばれていました。現在の都市名は、預言者ムハンマドの教友であったアン＝ヌウマーン・イブン＝バシールに由来しています。

この都市には、長い歴史を物語る数多くの史跡が残されています。周囲の「デッド・シティーズ」から発掘されたモザイクなどを展示する博物館、1170年の大地震後に再建されたモスクとミナレット、1199年に創建されたマドラサ・アブー・アル＝ファラウィス、そして中世の城塞跡など、見どころは満載です。

著名な詩人アル＝マアッリー

マアッラト・アン＝ヌウマーンは、盲目の詩人・哲学者として知られるアブー・アル＝アラー・アル＝マアッリー（973年 - 1057年）の生誕地でもあります。アル＝マアッリーは、合理主義的な主張やイスラム教の教理への批判で知られており、その作品は現在も高く評価されています。彼の生きた時代や思想を知る上で、この都市を訪れることは大きな意味を持つでしょう。

十字軍と悲劇の攻囲戦

マアッラト・アン＝ヌウマーンの歴史において、最も暗い影を落とした出来事として、第1回十字軍の攻囲戦が挙げられます。1098年、アンティオキアを陥落させた十字軍は、激しい飢餓に苦しんでいました。食糧を求めて周辺の村々を襲撃した十字軍は、同年11月にマアッラト・アン＝ヌウマーンを包囲、12月12日に市街に突入し、住民約2万人を虐殺しました。

そして、この攻囲戦における最も衝撃的な出来事として、十字軍兵士による人肉食が記録されています。飢餓に苦しんだ兵士たちが、殺害した住民の遺体を食べたというのです。ローマ教皇ウルバヌス2世に送られた書簡や複数の年代記には、この恐るべき行為が詳細に記録されており、十字軍の残虐性を改めて知らしめるものとなっています。この行為は単なる飢餓によるものだけでなく、異教徒に対する侮蔑が背景にあった可能性も指摘されています。

十字軍後の歴史

十字軍による占領後も、マアッラト・アン＝ヌウマーンは様々な勢力の支配下に置かれました。1135年にはザンギー朝、1185年にはサラーフッディーン、そして1272年にはマムルーク朝へと支配者が移り変わっていきました。それぞれの時代の影響が、この都市の文化や建築様式に刻まれています。

現代のマアッラト・アン＝ヌウマーン

現代のマアッラト・アン＝ヌウマーンは、かつての栄華を偲ばせる歴史的建造物と、現代的な生活が共存する都市です。長い歴史と数々の出来事を経てきたこの都市は、その複雑な歴史と文化遺産を現代に伝えています。歴史と文化、そして悲劇の歴史を肌で感じる、忘れられない旅となるでしょう。

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