イドリブ

イドリブ：シリア北西部の歴史と現状

シリア北西部イドリブ県に位置するイドリブ市は、豊かな歴史と複雑な現代状況が交錯する都市です。トルコ国境の南、大都市アレッポの東60キロメートルに位置し、アレッポの経済圏に属しています。人口は約5万5千人で、スンナ派アラブ人が多数を占める一方、キリスト教徒やクルド人も暮らす多様な地域社会です。

豊かな歴史と農業

イドリブ周辺は肥沃な土地として知られ、綿花、穀物、オリーブ、イチジク、ブドウ、トマト、ゴマ、コムギ、アーモンドなど、多様な農産物が栽培されています。特にオリーブと果実の生産が盛んで、県内には300万本ものオリーブの木が植えられています。多くの住民は農業に従事するか、アレッポに通勤して生計を立てています。

標高約450メートルのこの地は、オロンテス川沿いに広がり、古くからアレッポ、ハマ、アンティオキアといった都市を結ぶ重要な交通路として機能してきました。そのため、イドリブ周辺には数多くの古代都市遺跡や遺丘（テル）が存在します。

中でもイドリブ県南部にあるテル・マルディフのエブラ遺跡は特筆に値します。紀元前3千年紀、そして紀元前1800年から紀元前1650年にかけて栄えたエブラ王国は、シュメール語やエブラ語の粘土板など数多くの貴重な遺物を後世に残しました。また、マアッラト・アン＝ヌウマーン周辺には、「デッド・シティーズ」と呼ばれる放棄された古代都市や村落の廃墟が広がり、その歴史的価値から世界遺産（シリア北部の古村落群）にも登録されています。これらの遺跡は、イドリブの長い歴史と豊かな文化遺産を物語っています。

シリア内戦と避難民

しかし、イドリブ市は、2011年に始まったシリア内戦の深刻な影響を受けています。2015年3月には、アルカイダ系反政府勢力アル＝ヌスラ戦線がイドリブ市を制圧しました。2023年現在も、アル＝ヌスラ戦線やアハラール・アルシャームといった反体制派組織が支配下に置いています。

内戦によって、多くの住民が故郷を追われ、イドリブ市には避難民が殺到しました。シリア内戦が始まってから6年弱で、推計70万人もの避難民が流入したと言われています。この急激な人口増加は、イドリブ市のインフラや資源に大きな負担をかけており、住民生活に深刻な影響を与えています。

歴史と自然の恵み豊かな土地、そして複雑な政治情勢が交錯するイドリブ市は、シリア内戦の爪痕を今も深く刻みつつ、その未来に向けて歩み続けています。 その現状と歴史的背景を理解することは、シリア情勢を考える上で非常に重要です。

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