パンチカード

パンチカード：情報化時代の先駆け

パンチカードは、厚紙に穴を開けることで情報を記録する媒体です。かつては鑽孔紙テープと並び、データ処理の主要な手段でした。特に電子式コンピュータが登場する以前の時代には、その重要性は計り知れません。近年では、コンピュータの主要メディアとしての役割を終えましたが、その歴史と技術は、現代の情報社会を理解する上で欠かせない要素です。

パンチカードの多様な用途

パンチカードは、単にコンピュータのデータ入力だけでなく、様々な用途に使われてきました。例えば、写真フィルムを貼るための窓を作ったり、端に切れ込みを入れて手作業で分類したりするなど、紙ならではの特性を生かした利用法もありました。また、選挙の投票用紙やマークシートとしても利用されることがあります。

パンチカードの歴史

ジャカード織機

パンチカードの起源は、織機の自動制御にまで遡ります。19世紀初頭、ジョゼフ・マリー・ジャカールが開発したジャカード織機は、厚紙に穴を開けることで模様を自動的に織り込む画期的なものでした。この技術が、後のパンチカードの発展に大きな影響を与えました。

情報格納手段としての利用

機械制御だけでなく、情報格納手段としてパンチカード状のものを用いた最初の人物は、セミヨン・コルサコフであるとされています。彼は1832年に考案した技術と機械を発表しました。

チャールズ・バベッジの解析機関

19世紀には、チャールズ・バベッジが「解析機関」という計算機を構想しました。この解析機関は、ジャカード織機にヒントを得て、パンチカード状のものを制御に利用するアイデアがありました。しかし、解析機関は完成には至りませんでした。

ハーマン・ホレリスとタビュレーティングマシン

コンピュータ用パンチカードの直接の祖先は、19世紀末のアメリカでハーマン・ホレリスによって発明されました。当時のアメリカでは、急増する人口の国勢調査の集計に時間がかかっていました。ホレリスは、この問題を解決するためにタビュレーティングマシンを開発しました。この機械は、パンチカードに記録されたデータを読み取り、集計作業を大幅に効率化しました。

ホレリスは、1枚のカードに45項目、1項目につき12種類の選択肢を記録できる仕様を策定しました。このカードは、1ドル紙幣と同じサイズで、低価格で販売されたため、事実上の標準となりました。ホレリスが設立した会社は、後にIBMへと発展しました。IBMは、カードの穴を長方形にすることで80項目に拡張し、この仕様はその後長く受け継がれていくことになります。

パンチカードの全盛期

1950年代まで、パンチカードはデータ入力、保管、処理の主要な手段として広く利用されました。IBMは、1937年には32のパンチカード工場を持ち、1日に500万枚から1000万枚のパンチカードを生産していました。パンチカードは、政府の小切手や貯蓄債券などの法的書類にも使われました。

パンチカードから磁気テープへ

1950年代、UNIVAC I の入出力装置UNITYPERが磁気テープを導入し、1960年代には磁気テープを採用するコンピュータが増えました。これにより、パンチカードから高速で書き換えの利く磁気テープへの移行が徐々に進みました。しかし、1980年代中ごろまで、パンチカードはデータやプログラムの入力手段として使われ続けました。

パンチカードの編集の課題

パンチカードは、一度穿孔すると文字単位での編集ができないという欠点がありました。そのため、プログラマは別の紙に内容を書き写し、後でまとめてパンチすることが一般的でした。また、大規模な組織では、キーパンチャーと呼ばれる専門職がプログラム用のカードをパンチしていました。しかし、行単位の編集や移動は容易であったため、プログラムの修正には便利でした。

パンチカードの終焉と影響

1970年代から1980年代にかけて、磁気ディスクや端末の低価格化、ミニコンピュータの普及により、パンチカードはコンピュータへのデータ入力手段としての役割を終えました。しかし、多くの業界標準規格やファイルフォーマットには、パンチカードの影響が残っています。例えば、IBM 3270などの端末は、互換性を考慮して1行の表示文字数をパンチカードと同じ80文字としています。また、FORTRANなどの言語も1行80桁が基本となっています。

パンチカードの影響

パンチカードは、その後の情報技術に大きな影響を与えました。以下に、主な影響を挙げます。

メインフレームの設定ファイルやJCLは、現在でも1行80桁が基本です。
FORTRANなどのプログラミング言語は、1行80桁が基本です。
1行80桁のプログラミング作法は、現在でも根強い人気があります。
3270や5250などのメインフレーム用表示装置やエミュレータは、1行80桁が基本です。
IBM PC以降のパーソナルコンピュータの表示解像度も、1行80桁が基本です。
端末エミュレータのデフォルトウィンドウサイズは、80桁に合わせたサイズです。

投票用紙としての利用

パンチカードは、選挙の投票用紙としても使われることがあります。アメリカ合衆国の大統領選挙では、1964年から採用する州や郡がありました。しかし、不完全なパンチ穴による誤読や、穿孔くずによる機械の停止などの問題も発生しました。2000年の大統領選挙では、再集計ごとに集計結果が異なり、その信頼性が問われることとなりました。

ハンドソートパンチカード

ハンドソートパンチカードは、手操作で簡単に扱えるカードです。カードの周囲に開けられた孔の一部を切り取ることで情報を記録し、棒を通して引き上げると、切られたカードだけが振り落とされる仕組みになっています。事務用や調査データの処理に用いられていました。

パンチカードの呼称

パンチカードは、IBMカードやホレリスカードとも呼ばれます。IBM自身は、文書で言及する際は最初に「IBMカード」または「パンチカード」と呼び、その後は単に「カード」と呼んでいました。また、「タビュレーティングカード」または「タブカード」という呼称も用いられていました。

パンチカードのフォーマット

当初は用途ごとにデザインされたカードレイアウトが使われていましたが、1928年頃に標準化されました。カードには、穴の位置が判別できるような印刷がされているのが一般的です。また、カードの上端を斜めに切ることで、カードの向きや順番の間違いを防止していました。

ホレリスによるカード

ハーマン・ホレリスは、記録媒体として紙テープと長方形のカードの両方を考案しました。当初は、車掌が切符を切るように、穴を辺に沿って開けることを想定していました。しかし、後にカード全体を穿孔領域とし、パンタグラフ型のキーパンチを開発しました。ホレリスのシステムでは、当初は用途に応じて符号化システムを採用していましたが、後に標準化され、12行のうち下の10行を数字の0から9に対応させました。

IBMの80欄カード

1928年、IBMは縦長の長方形の穴を採用した80欄のカードを設計しました。このカードは、各欄に12のパンチ位置があり、1欄で1文字を表す形式でした。後に、英大文字や特殊記号も表現できるようになりました。1欄に複数の穴を開けることで、文字や記号を表現する仕組みは、後の文字コードにも影響を与えました。

その他のパンチカード

マークセンスカードは、マークシートのように鉛筆でマークを記入できるパンチカードです。アパチュアカードは、マイクロフィルムをはめ込むための穴が開いたパンチカードで、設計図の保管などに使われました。IBMのポータパンチは、手軽にパンチカードを作成できる携帯型の器具です。IBMは、1970年代に96欄のカードを発表し、UNIVACは90欄のカードを使用していました。

IBMによる生産

IBMのフレッド・M・キャロルは、パンチカードを製造する輪転印刷機を開発しました。この印刷機は、パンチカードの大量生産を可能にし、IBMの利益に大きく貢献しました。IBMは、当初は自社のカードのみを使うよう顧客に要求していましたが、後に連邦政府との訴訟に敗れ、カードの仕様を指定することしかできなくなりました。

文化的な影響

パンチカードは、その利用期間は短いながらも、ポップカルチャーに大きな影響を与えました。例えば、芸術作品や建築物、テレビドラマなどにも登場しています。また、パンチカードが象徴するシステムや疎外感は、社会運動の標的にもなりました。

パンチカードの規格

パンチカードには、ANSIやISOなどの規格が定められています。これらの規格は、パンチカードの形状、寸法、穴の位置、文字コードなどを規定しています。

パンチカードを扱う機器

パンチカードを扱う機器には、カード穿孔機、カード分類機、カード照合機、作表機などがあります。コンピュータへのデータ入力には、カード穿孔機とカード読取機が使われました。カードリーダーの読取速度は、初期のもので1分間に最大100枚、高速なもので1分間に約1,000枚でした。

パンチカードは、その物理的な制約から現代の技術とは異なりますが、情報処理の歴史における重要な一歩であり、その影響は現代社会にも深く根付いています。

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