マイゼル兄弟

マイゼル兄弟（Mizell Brothers）

マイゼル兄弟、すなわち兄のフォンス・マイゼル（Alphonso "Fonce" Mizell、1943年1月15日 - 2011年7月5日）と弟のラリー・マイゼル（Larry Mizell、1944年2月17日 - ）は、アメリカ合衆国を代表する音楽制作チームです。特に1970年代を中心に、ジャズ、フュージョン、R&B、ファンクといった多様なジャンルを融合させた独自のサウンドを確立し、当時の音楽シーンに大きな足跡を残しました。

生い立ちと学歴

ニューヨークで生を受けた二人は、ワシントンD.C.にあるハワード大学で学びました。ここでは、兄フォンスが音楽を専攻し、弟ラリーはエンジニアリングの分野に進んでいます。大学時代には、ジャズ・ヴォーカル四重奏団「Vanlords」のメンバーとしても活動しており、すでに音楽への深い関わりを持っていました。

Sky High Productionsの時代

1970年代の幕開けとともに、マイゼル兄弟は活動の拠点を西海岸、カリフォルニア州へと移します。そこで自身の音楽制作会社「Sky High Productions」を設立し、本格的にプロデューサーとしてのキャリアをスタートさせました。彼らが特に名を馳せたのは、ブルーノート・レコードにおける一連の仕事です。恩師であるトランペット奏者、ドナルド・バードのアルバムなどを手掛け、洗練されたジャズ・ファンクやクロスオーバー・サウンドを提示しました。この時期の彼らのサウンドは、単に個別の楽曲の成功にとどまらず、当時のフュージョン音楽全体のトーンやスタイルを決定づけるほどの影響力を持っていたと言われます。

制作スタイルと協力者

マイゼル兄弟の制作における役割分担は明確で、主にラリーが楽曲の作曲を担当し、フォンスがそれを補正・アレンジするという形が取られていました。彼らのサウンドを彩る上で欠かせなかったのが、卓越した腕を持つセッションミュージシャンたちです。例えば、ドラムにはハーヴィー・メイソン、ギターにはワー・ワー・ワトソンやデイヴィッド・T・ウォーカー、ベースにはチャック・レイニー、そしてピアノにはジェリー・ピーターズといった、当時のトッププレイヤーたちが参加しました。また、時折フレディー・ペレンやチャック・デイヴィスといった外部の共同制作者と組むこともあり、末弟のロドニー・マイゼルが制作に関わるケースもありましたが、多くは兄弟二人の主導で行われました。

代表的な仕事

彼らが手掛けた作品の中には、ジャンルの枠を超えて広く知られるヒット曲が数多くあります。例えば、テイスト・オブ・ハニーが1978年に発表し、プラチナムを獲得したローラー・スケート場のアンセムとも称される「Boogie Oogie Oogie」や、L.T.D.による1976年のヒット曲で、R&Bチャートで1位、ポップチャートでも20位を記録した「Love Ballad」などが挙げられます。さらに、1982年にはメリー・ウェルズの12インチ・シングルとして、ダンス・ファンクの傑作「ジゴロ」をプロデュースしています。ドナルド・バードのアルバムでは、モータウンの名曲「Just My Imagination」や「Dancing In The Street」のカヴァーを取り入れるなど、独自の解釈で既存の楽曲に新たな息吹を吹き込みました。

キャリアの変遷

1980年代に入ると、マイゼル兄弟は音楽産業の第一線からは徐々に距離を置くようになります。しかし、2000年代に入ると再び音楽活動への関心を示し始め、シーンへと復帰を果たしました。特筆すべき活動としては、2007年にUKのエレクトロニック・ミュージック・グループ、4Heroのアルバム『Play With The Changes』に、タイトル曲の作曲と演奏で参加したことが挙げられます。

それぞれの軌跡

兄弟それぞれも、音楽以外や音楽の初期段階で特筆すべきキャリアを持っています。弟のラリーは、音楽制作の傍ら、優れたエンジニアとしての才能も発揮していました。かつては電気技師としてNASAの宇宙開発計画、特にアポロ月着陸船のテストにも携わった経験があります。また、液晶の研究においては草分け的な存在としても知られています。

一方、兄のフォンスは、マイゼル兄弟としての活動以前に、モータウン・レコードで重要な役割を果たしています。彼は「The Corporation」という制作チームの一員として、1969年から1971年にかけてジャクソン5を全米的なスターダムに押し上げるのに貢献しました。モータウンがロサンゼルスに拠点を移した後も、フォンスはハワード大学時代の恩師であるドナルド・バードの作品を5枚プロデュースするなど、精力的に活動しました。

フォンスの逝去

音楽史に名を刻んだ兄、フォンス・マイゼルは、2011年7月5日に心臓病のため68歳でこの世を去りました。彼の死により、マイゼル兄弟としての活動は一つの区切りを迎えることとなりましたが、彼らが残した革新的なサウンドと数々の名曲は、現在も多くのアーティストやリスナーに影響を与え続けています。

遺産

マイゼル兄弟の功績は、単なるヒット曲のプロデュースにとどまりません。ジャズとR&B、ファンク、ソウルといったジャンルを横断し、新たな音楽的表現の可能性を切り拓いたそのサウンドは、後の世代のプロデューサーやミュージシャンにとって重要な手本となりました。彼らのディスコグラフィーは、その創造性と影響力の大きさを示しています。より詳しい情報や作品リストについては、関連するディスコグラフィー、参考文献、外部リンクなどを参照してください。

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