マウリツィオ・ポリーニ

マウリツィオ・ポリーニ：20世紀～21世紀を代表するピアニストの生涯

マウリツィオ・ポリーニ(1942年1月5日-2024年3月23日)は、イタリア、ミラノ出身のピアニストとして、20世紀から21世紀にかけて世界的な名声を博しました。建築家の父と声楽家でもあったピアニストの母を持つ恵まれた環境で育ち、5歳から本格的にピアノを学び始めます。才能豊かな若きポリーニは、数々の国際コンクールで輝かしい成績を収め、その名を世界に知らしめました。

華々しいデビューと国際的な成功

15歳の若さでジュネーブ国際コンクールに出場し、第2位を獲得。翌年も同コンクールに参加し、1位なしの第2位という結果を残します。1959年には第1回ポッツォーリ国際ピアノコンクールで優勝を飾り、早くからその才能に注目が集まりました。そして、1960年、18歳にして第6回ショパン国際ピアノコンクールで審査員全員一致の優勝を果たします。審査委員長を務めたアルトゥール・ルービンシュタインから絶賛され、一躍国際的なスターダムにのし上がりました。

8年間の沈黙と研鑽

しかし、ポリーニは国際的な演奏活動を8年間休止します。その理由として、若さゆえの未熟さを自覚し、さらなる研鑽が必要だと判断したためだとされています。この期間、彼はアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリのもとで研鑽を積み、さらにミラノ大学で物理学を学ぶなど、多角的な視野を養いました。多忙な演奏活動に身を投じる前に、自身の音楽的土台を固め、より高いレベルを目指したのです。

国際舞台への復帰と現代音楽への貢献

1968年に国際ツアーに復帰したポリーニは、1971年からドイツ・グラモフォンと契約し、数々の録音作品を発表。国際的な賞を次々と受賞します。1974年には初来日を果たし、その後も日本での演奏活動は盛んに行われました。1976年の再来日公演では、ピエール・ブーレーズのピアノソナタ第2番の日本初演を行い、現代音楽への積極的な姿勢を見せつけました。

1990年代には、自身企画による連続演奏会「ポリーニ・プロジェクト」を開催するなど、音楽活動は多岐にわたりました。東京でも大規模な公演を行い、大きな話題を呼びました。晩年は体調不良によるキャンセルが相次ぎましたが、2023年10月30日のリサイタルが最後の演奏となりました。2024年3月23日、ミラノの自宅で82歳で亡くなりました。

多彩なレパートリーと独自の演奏スタイル

ポリーニはバッハから現代音楽まで、幅広いレパートリーを誇るオールラウンダーとして知られていました。ベートーヴェン、シューベルト、ショパン、シューマンといった古典派からロマン派の作品、そしてストラヴィンスキーやブーレーズ、ウェーベルンといった現代音楽の作品まで、精力的に演奏しました。特にベートーヴェンのピアノソナタ全曲録音は、長年にわたる取り組みの成果であり、音楽史に大きな足跡を残しました。

独奏曲や協奏曲の録音を主としていましたが、室内楽の録音は少なく、ブラームスのピアノ五重奏曲のみ。晩年にはモーツァルトのピアノ協奏曲の弾き振り録音も行っていました。洗練されたテクニックと深い音楽性、そして独自の解釈で聴衆を魅了し続けました。

ポリーニの人となり

インタビューでは、よく考えてから話す慎重な性格だったと伝えられています。NHKの番組では、クラシック音楽とポピュラー音楽を比較し、クラシック音楽の方が想像力が豊かであると独特の視点で発言しています。また、幼少期はそれほどピアノ練習に励んでいなかったこと、年齢を重ねるにつれて練習量が増えたことなどを語っています。

ミラノ出身の指揮者クラウディオ・アバドとは親交が深く、多くの共演を重ねました。イタリア共産党員だった作曲家ルチアーノ・ベリオとも深い関係を持っていたとされています。日本文化への関心も高く、共演はありませんでしたが、カルロス・クライバーの写真も残されています。

主要受賞歴

1957年：ジュネーブ国際コンクールピアノ男性部門第2位
1958年：ジュネーブ国際コンクール1位なしの第2位
1959年：第1回ポッツォーリ国際ピアノコンクール優勝
1960年：第6回ショパン国際ピアノコンクール優勝
1979年：第22回グラミー賞「Best Classical Performance - Instrumental Soloist or Soloists (with orchestra)」
1996年：エルンスト・フォン・ジーメンス音楽賞
2000年：Cavaliere di gran croce dell'Ordine al merito della Repubblica italiana
2001年：Diapason d'Or
2004年：Medaglia d'oro ai benemeriti della cultura e dell'arte
2007年：第49回グラミー賞「Best Classical Performance - Instrumental Soloist (without orchestra)」
2010年：高松宮殿下記念世界文化賞
2012年：Gramophone殿堂入り

マウリツィオ・ポリーニは、その卓越した演奏技術と深い音楽性、そして独自の解釈によって、音楽史に名を残す偉大なピアニストでした。彼の音楽は、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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