マウロ・フォルギエリ

マウロ・フォルギエリ：F1黄金時代を彩った天才エンジニアの軌跡

マウロ・フォルギエリ (1935年1月13日 - 2022年11月2日) は、イタリアの自動車界に多大な貢献を果たした、類まれな才能を持つレーシングカーおよびエンジン設計者でした。スクーデリア・フェラーリとランボルギーニでチーフデザイナーを務め、F1の歴史に名を刻む数々の名車を世に送り出しました。彼の生涯は、情熱、革新、そして幾多の挑戦に満ちたものでした。

フェラーリ時代：栄光と葛藤の26年間

モデナ出身のフォルギエリは、ボローニャ大学で機械工学の学位を取得後、教職に就いていました。しかし、父の縁でエンツォ・フェラーリと出会い、1959年にフェラーリに入社。カルロ・キティの下で経験を積み、キティらのチーム離脱後、わずか26歳でレース部門の開発責任者に抜擢されます。

彼の才能が世界に知らしめられたのは、1964年。処女作である「158F1」が、ドライバーズチャンピオンとコンストラクターズチャンピオンの両タイトルを獲得するという快挙を成し遂げました。その後も、スポーツカー耐久レースにおいて、フェラーリをフォードやポルシェら強豪相手に率い、熾烈な覇権争いを繰り広げます。

フォルギエリは、車体とエンジンの両面を設計する稀有なレーシングカーデザイナーの最後の世代に属していました。Can-Amシリーズやタスマンシリーズなど、多様なカテゴリーのマシン開発に携わり、その設計技術の幅広さと深さを証明しました。

1970年代には、低重心の12気筒水平対向エンジンの開発に着手。開発には困難が伴い、一時的に開発チームから外されることもありましたが、その努力は実を結び、高い戦闘力を誇るエンジンへと進化しました。

そして1975年、画期的なマシン「312T」を発表。横置き式ギアボックスの採用により操縦性能を飛躍的に向上させました。「T」は横置き(Trasversale)の頭文字です。312Tシリーズは、グラウンド・エフェクト・カーへと発展し、ニキ・ラウダ、ジョディ・シェクターらの活躍により、3度のドライバーズチャンピオンと4度のコンストラクターズチャンピオンを獲得するなど、フェラーリの黄金時代を築き上げました。

312Tシリーズの成功には、エンジニアとしての才能に長けたラウダの貢献も無視できません。情熱的なフォルギエリとクールなラウダは、時に激しい議論を交わすこともありましたが、マシン開発においては最強のパートナーシップを築き上げました。ラウダは自著でフォルギエリを「天才だが狂人でもある」と評し、その才能と独特の人格を印象的に描写しています。

1981年には、ルノーに次いでターボエンジンの開発に着手しましたが、増大したエンジンパワーと旧式のシャーシ設計のバランスが悪く、操縦性能の悪化を招いてしまいます。その後、シャーシ設計にハーベイ・ポスルスウェイトを迎え入れることで、1982年と1983年にコンストラクターズタイトルを獲得しましたが、次第に勝利から遠ざかり、1985年に市販車技術研究部門へ異動となります。そこで、4WDと4WSを採用したコンセプトカー「フェラーリ・408」を開発しました。

ランボルギーニ時代：新たな挑戦とF1への挑戦

しかし、フェラーリは4WD技術の市販車への採用に消極的で、408の市販化も実現しませんでした。そのため、フォルギエリは1987年にフェラーリを離れ、ランボルギーニに移籍。ランボルギーニのF1計画の中心人物となり、V型12気筒エンジンの開発を担当し、ローラ、ロータス、リジェといったチームに供給しました。勝利には至らなかったものの、その甲高いV12サウンドは、フェラーリを凌駕する美しさだと評されました。

ランボルギーニはメキシコのグラスチームのF1参戦を支援する計画でしたが、資金トラブルにより計画は頓挫。1991年にはモデナとして独自参戦しますが、フォルギエリが手がけた「291」は競争力を欠き、フォルギエリはチームを去ることになりました。

その後、ブガッティに在籍した後、地元モデナでオーラル・エンジニアリングの運営に参加。2022年11月2日、87歳で逝去しました。フェラーリは公式声明で、「共に歴史を築いたことは栄誉です。フェラーリとモータースポーツ界はあなたのことを忘れないでしょう」と追悼のコメントを発表しました。

マウロ・フォルギエリは、天才的な技術と情熱、そして時に奔放な性格でF1の歴史に大きな足跡を残しました。彼の功績は、これからもモータースポーツ界に語り継がれていくことでしょう。

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