マキ (抵抗運動)

マキ ― フランスのレジスタンス組織

第二次世界大戦下のフランス占領下において、レジスタンス運動の中核を担った組織の一つに「マキ (maquis)」があります。マキは、地中海沿岸地方、特にコルシカ島に自生する密生した灌木を意味する言葉から派生し、当初は警察の追跡や復讐から逃れるために山岳地帯などに身を潜めることを指していました。しかし、やがてこの言葉は、ドイツ軍に対抗するレジスタンス組織を指すようになり、その構成員はマキザール (maquisard) と呼ばれました。

マキは、規模や活動拠点が様々でした。活動地域の名前で呼ばれることが多く、例えばヴェルコール山脈で活動するマキは「ヴェルコール」と呼ばれていました。メンバーの人数は十数名規模から数千名規模まで様々であり、ブルターニュ地方や南フランスの山岳地帯を中心に活動拠点を構えていました。

マキザールの多くは、ドイツ軍（武装親衛隊や国防軍）に対してゲリラ戦を展開しました。その活動内容は、単なるゲリラ攻撃にとどまらず、撃墜された連合軍パイロットやユダヤ人の脱出支援なども行っていました。一方で、村落を襲撃したり、虐殺に関与した事例もあり、その活動内容については必ずしも一貫していませんでした。しかしながら、多くの場合、地元住民からの協力は得られており、マキは民衆から一定の支持を得ていたようです。

マキの起源については、ヴィシー政府の徴用令を拒否し、山中に逃れた若者たちによって組織されたという説が広く信じられています。フランス南部や東部の山岳地帯など、地形的に適した地域で組織化が進み、地元住民の協力を得られた地域では、人里離れた農家や村落を拠点として活動していました。

当初は散発的な活動でしたが、次第に全国的な組織へと発展していき、その過程でアルジェ臨時政府に近いFFI（Forces françaises de l'intérieur）や、共産主義を支持するFTPF（Francs-Tireurs et Partisans Français）などの派閥が形成されました。

1943年には、イギリスのSOE（特殊作戦執行部）とアメリカのOSS（戦略諜報局）による支援が始まり、大量の兵員や物資がマキに供給されるようになり、マキの組織力や戦闘能力は大きく向上しました。

1944年6月6日のノルマンディ上陸作戦を機に、マキはドイツ軍の進撃を遅らせるため本格的なゲリラ戦を開始しました。特に8月15日のプロヴァンス上陸後は、ゲリラ活動が活発化し、マキへの参加者も増加の一途を辿りました。ドイツ軍はこれに対抗し、ゲリラ掃討作戦を開始、レジスタンス活動が盛んな地域に対しては、オラドゥール＝シュル＝グラヌのような残虐な報復を行いました。

ノルマンディ上陸作戦において、マキを含むレジスタンス組織は、ドイツ軍の増援部隊の到着を遅らせる上で重要な役割を果たしました。連合軍の進撃に伴い、マキザールとドイツ軍との戦闘は激化し、大規模な戦闘も発生しました。例えば、ナンシー・ウェイクが率いる7000名規模のマキザールが、22,000名規模のドイツ軍と戦闘した例もあります。

マキザールの中には捕虜を取らず、特に親衛隊員や降下猟兵を処刑するグループもあったため、ドイツ軍兵士は連合軍の捕虜になることを望む傾向がありました。しかし、マキザールが捕虜になった場合、拷問や強制収容所送りの危険性が高く、生還率は低かったとされています。

マキザールの政治的傾向は多様で、右翼的なナショナリストから左翼的な共産主義者まで、幅広い政治的立場の人々が参加していました。スペイン内戦を経験したスペイン人共和主義者のみで構成されるマキもあったと言われています。マキザールのシンボルマークはバスク風ベレー帽であり、その普及度から容易に識別でき、かつ疑いを招くこともなかったため、有効な識別手段として用いられました。

1944年、ドゴール将軍によるパリ解放によって、マキは解散しました。多くのマキザールは故郷に戻りましたが、一部はフランス軍に参加して戦いを続けました。マキの活動は、フランスのレジスタンス運動を語る上で欠かせない重要な出来事として、現在も歴史に刻まれています。

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