マキ (F1)

マキ ― 日本のF1挑戦史

1970年代、世界最高峰のモータースポーツであるF1に、日本の小さなプライベートチームが挑んだ。その名は「マキ」。ホンダに続く2番目の日本人F1コンストラクターとして、世界を舞台にその名を刻んだチームの物語を紐解こう。

マキの誕生とF1への挑戦

マキエンジニアリングは、1973年に三村建治氏を中心に設立された。F2やグループCなどのレースで実績を積んできた三村氏を中心とした、純粋なプライベートチームだったことがマキの特徴と言えるだろう。オーナーは株式会社エムズブレーンの牧資章氏で、チーム名は牧氏に由来する。

F1参戦に向けて開発されたのが、F101である。ボディデザインを担当したのは三村氏、シャシー設計は小野昌朗氏（現東京R&D社長）が担当した。エンジンは、当時F1で主流だったフォード・コスワース・DFVエンジンを搭載。特徴的なスポーツカーノーズと大型サイドポンツーンを持つデザインは、空気抵抗を低減するための工夫だったと三村氏は語っている。小野氏は、F1マシンの設計経験がなく、グループCマシンとの違いはさほどないだろうと考えていたというエピソードも興味深い。設計にあたっては、ティレルのデレック・ガードナーにコンセプトの相談をしたとも小野氏は述べており、ティレルP34との類似点も指摘されている。重量はレギュレーションの最低重量を大幅に上回っていたが、これは安全性を重視した結果によるものだった。

1974年3月15日、イギリスのホテルでF1参戦を発表。白地に日の丸を配したF101がお披露目された。ドライバーには、元BRMのハウデン・ガンレイと、速見翔（本名：新井鐘哲）が選ばれた。極秘プロジェクトであったため、関係者は変名を使用していたという。これは、三村氏自身の経験不足に対する不安からくるものだったとされている。記者会見では自社開発エンジンの計画も示されたが、資金不足により、シリーズ全戦への参戦は困難を極めた。

初戦のスペインGPには参戦できず、その後イギリスGP、ドイツGPに参戦するも、予選落ちに終わった。ドイツGPでは、事故によりガンレイが両脚を骨折する重傷を負うというアクシデントに見舞われた。

そして13位入賞へ

1975年には、シチズン時計をスポンサーに迎え、「マキレーシング」へと組織変更。F101を改良したF101Cでヨーロッパラウンド4戦に参戦した。ドライバーには鮒子田寛とトニー・トリマーが起用されたが、いずれのレースでも決勝進出は叶わなかった。しかし、ノンタイトル戦のスイスGP（フランスで開催）では予選を通過し、決勝レースで13位を獲得。日本のプライベートチームとして、F1で決勝レースを走り、入賞を果たしたという大きな成果を残した。

マキの最終章

1976年、F1日本GPに照準を定め、新車F102Aを開発。ホットスタッフ・レーシングがチーム運営を代行し、トリマーがドライブを担当したものの、予選突破はならず、マキのF1挑戦は幕を閉じた。

マキとその後

その後、三村氏は童夢の設立に参加。小野氏とともに、国産スーパーカー童夢・零やルマン24時間レース用マシンの開発に携わった。

マシンたちのその後

F101の1台は、長野県上田市のドライブインで長年展示されていたのち、レストアを経て広島市交通科学館などで展示、2014年にはグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで走行が実現。F101Cはスパ・フランコルシャン近くのスタブロー博物館に保存されていたが、レストアを経て、2016年のモナコ・ヒストリックGPで41年ぶりにレースに復帰し、2017年には鈴鹿サーキットを走行した。F102Aの所在は不明である。

マキは、資金力や体制に劣る状況の中、日本の技術力と情熱でF1に挑戦したチームとして、その挑戦の歴史は多くの日本人に感動と記憶を残している。小さなチームが世界最高峰の舞台に挑み、結果を残したその歴史は、日本のモータースポーツの歴史において、決して忘れられることはないだろう。

もう一度検索