マスウード (イラク・セルジューク朝)

マスウード

マスウード（Mas'ud、生年不詳ながら1108年頃とされる – 1152年9月13日没）は、12世紀半ばのイラク・セルジューク朝において第4代スルタンとして統治した人物です。彼の在位期間は1134年から1152年までで、父はセルジューク朝全体の第7代スルタンを務めたムハンマド・タパルでした。

マスウードの即位までの道のりは波乱に富んでいました。1131年に兄であるマフムード2世がこの世を去ると、王朝の後継を巡る混乱が生じました。この状況に対し、大セルジューク朝のスルタンであり、強力な影響力を持っていた叔父のアフマド・サンジャルが介入し、別の人物であるトゥグリル2世をイラク・セルジューク朝のスルタンとして擁立しました。しかし、マスウードはこの叔父の決定に強く反対し、自らがスルタンの地位に就くべくサンジャルと対立しました。両者の緊張はついに武力衝突へと発展しましたが、マスウードはダイナワル近郊で行われた戦いで大敗を喫し、一時的に窮地に立たされます。

しかし、事態は予期せぬ方向に動きました。アフマド・サンジャルによって即位させられたトゥグリル2世が、わずか1年余りという短い期間で早世したのです。この予期せぬ出来事を受けて、アフマド・サンジャルは方針を転換し、マスウードに対してスルタン位への即位を命じました。これにより、一度は敗れたマスウードが、1134年に正式にイラク・セルジューク朝の第4代スルタンとして権力を握ることとなりました。

スルタンとしてイラクを統治したマスウードでしたが、その治世は決して平穏ではありませんでした。当時のイラクでは、アッバース朝のカリフが失われた政治的権威の回復を図り、セルジューク朝の影響力からの脱却を目指して様々な策動を展開していました。こうしたカリフの動きは、イラクの政治情勢を一層不安定にし、マスウードの統治に constant な課題をもたらしました。内外部からの圧力の中で、彼の治世は混乱を伴いながら進んでいきました。

1152年、マスウードは死去しました。彼の死は、イラク・セルジューク朝にとって決定的な転換点となります。マスウードの死後、スルタンの座を巡って激しい後継者争いが勃発しました。兄マフムード2世の息子たちであるマリク・シャー3世とムハンマド2世、そしてマスウードの弟であるスライマーン・シャーらがそれぞれ権利を主張し、互いに争いました。この内紛の混乱に乗じる形で、アッバース朝のカリフはバグダードにおけるイラク・セルジューク朝の影響力を完全に排除すべく、具体的な行動に出ました。カリフはスルタンの宮殿や領地といったセルジューク朝の重要な資産を没収するなど、セルジューク朝の政治的・経済的基盤を弱体化させる措置を講じました。後継者争いによる内部の分裂と、カリフによる外部からの圧力という二重苦により、イラク・セルジューク朝は急速な衰退の道を辿ることとなり、最終的には王朝の崩壊へと繋がっていきました。マスウードの死は、この衰退過程を決定づける重要な出来事であったと言えます。

マスウードの生涯と治世、そしてその死後に続く出来事は、当時のイスラーム世界の複雑な権力構造と、セルジューク朝という大帝国の末期における地方政権の不安定な様相を示しています。彼の時代は、大セルジューク朝からの独立性が強まる中で、内部的な争いと外部勢力（特にアッバース朝カリフ）との関係が王朝の命運を左右した時期にあたります。

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