イラク・セルジューク朝

イラク・セルジューク朝

イラク・セルジューク朝は、11世紀末から12世紀にかけて、西アジアに存在した地方政権です。大セルジューク朝から分かれた王朝の一つで、その支配領域は現在のイラク共和国とは一部異なります。王朝名は、現代の研究者が他のセルジューク朝系政権と区別するために便宜上用いているもので、同時代の史料には見られません。

セルジューク朝の東西分裂とイラク・セルジューク朝の成立

1092年にセルジューク朝のスルターン、マリク・シャーが亡くなると、後継者争いが勃発しました。最終的に、マリク・シャーの子であるムハンマド・タパルが1104年にスルターンの地位に就きます。ムハンマド・タパルはイラン西部とイラクを中心とする地域を統治し、一方、彼の異母弟であるアフマド・サンジャルはホラーサーンを中心とする東部地域を統治するという、東西分立体制が確立しました。サンジャルはムハンマド・タパルを「スルターン」と呼び、その宗主権を認めていましたが、ムハンマド・タパルの死後、その関係は変化していきます。

1118年にムハンマド・タパルが死去すると、長男のマフムードがスルターンの地位を継承しましたが、翌年、サンジャルがイラン西部に侵攻し、サーヴェの戦いでマフムード軍を打ち破りました。勝利したサンジャルは、マフムードにセルジューク朝の「大スルターン」としての権威と宗主権を認めさせ、同時にマフムードと自身の娘との婚姻を取り決めました。1131年にマフムードが亡くなると、サンジャルは自身の庇護下にあったマフムードの弟、トゥグリル（トゥグリル2世）をスルターンに擁立し、これに反対したトゥグリルの兄弟マスウードを打ち破りました。しかし、トゥグリルは即位からわずか1年余りで急逝し、サンジャルはやむなくマスウードの即位を承認しました。

大セルジューク朝の崩壊とアタベクの台頭

1152年にマスウードが没した後、スルターンの地位をめぐり、マフムードの子であるムハンマド（ムハンマド2世）とマリク・シャー（マリク・シャー2世）、そしてムハンマド・タパルの子であるスライマーン・シャーが争いました。1160年3月までにムハンマドとマリク・シャーが相次いで亡くなり、最終的にスライマーン・シャーがスルターンの地位に就きましたが、トゥグリル2世の遺児アルスラーン・シャーのアタベク（後見人）であるイルデニズがスライマーン・シャーに挑戦しました。

1161年にスライマーン・シャーが暗殺されると、イルデニズは2万の兵を率いてハマダーンに進軍し、他のアタベクたちの支持を得てアルスラーン・シャーをスルターンに擁立しました。イルデニズは「アタベク・アル＝アザーム（至上のアタベク）」としてアルスラーン・シャーの後見人となり、セルジューク朝の軍事、財政、イクターの授与といった実権を掌握しました。アルスラーン・シャーは名目的なスルターンに過ぎませんでした。

イルデニズとその妻でトゥグリル2世の未亡人であるムゥミナ・ハトゥンは、アゼルバイジャンを本拠地とするイルデニズ朝を築き、セルジューク朝の実権を掌握していました。しかし、1175年にイルデニズとムゥミナ・ハトゥンが相次いで亡くなると、イルデニズの子でアルスラーン・シャーの異父兄弟であるジャハーン・パフラヴァーンが父の地位を継承し、アルスラーン・シャーは実権を取り戻すためにジャハーン・パフラヴァーン討伐の兵を挙げましたが、進軍中に急死しました。その後、7歳になるアルスラーン・シャーの王子トゥグリル3世が新たなスルターンに擁立されました。

トゥグリル3世とイルデニズ朝の抗争、そして滅亡

1186年にジャハーン・パフラヴァーンが没すると、キジル・アルスラーンがイルデニズ朝の君主となりましたが、ジャハーン・パフラヴァーンの妻であるイナンチ・ハトゥンがキジル・アルスラーンに反乱を起こし、トゥグリル3世はイナンチ・ハトゥンの陣営に加わってキジル・アルスラーンに対抗しました。しかし、キジル・アルスラーンはアッバース朝の援軍を得てハマダーンに進攻し、トゥグリル3世は敗れて捕らえられました。その後、キジル・アルスラーンはカリフの勧めに従い、自らがセルジューク朝のスルターンとなりましたが、1191年にイナンチ・ハトゥンによって毒殺されました。

キジル・アルスラーンの死後、解放されたトゥグリル3世は再び勢力を盛り返しましたが、ホラズム・シャー朝の侵攻を受け、1194年にレイで戦死しました。これにより、大セルジューク朝、イラク・セルジューク朝の領土と、「スルターン」を称する人物は消滅し、イラク・セルジューク朝の領土はホラズム・シャー朝に編入されました。

文化

イラク・セルジューク朝の宮廷では、ペルシア語による文芸活動が奨励されました。特に、トゥグリル3世の時代には多くの詩集や史書が編纂され、詩人ニザーミーは叙事詩『ホスローとシーリーン』をトゥグリル3世に献呈しました。

歴代スルタン

マフムード2世（1118年 - 1131年）
ダーウード（1131年 - 1132年）
トゥグリル2世（1132年 - 1134年）
マスウード（1134年 - 1152年）
マリク・シャー3世（1152年 - 1153年）
ムハンマド2世（1153年-1160年）
スライマーン・シャー（1160年 - 1161年）
アルスラーン・シャー（1161年 - 1176年）
トゥグリル3世（1176年 - 1190年、復位1191年 - 1194年）
クズル・アルスラーン（1190年 - 1191年）

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