マスチゴアメーバ科

マスチゴアメーバ科

マスチゴアメーバ科（Mastigamoebidae）は、細胞内にミトコンドリアを持たないという特徴を持つアメーバ様の原生生物が含まれる分類群です。淡水環境の底泥から動物の腸管内まで、様々な環境に適応して生活しています。現在この科には、自由生活を送るマスチゴアメーバ（Mastigamoeba）属と、動物の消化管内に見られるエンドリマクス（Endolimax）属およびヨードアメーバ（Iodamoeba）属の、主に三つの属が含まれています。

特徴

この科の生物の最も顕著な特徴は、その生活環の少なくとも一部で、好気呼吸を担うミトコンドリアが確認されない点です。形態的にはアメーバ様の姿をとりますが、多くの種、特に淡水環境に生息するマスチゴアメーバ属の生物は、細胞の前方に一本の鞭毛を持つことがあります。この鞭毛は運動や細胞の付着に関与すると考えられています。鞭毛の基底小体からは微小管が伸びており、細胞核を取り囲むように特徴的な円錐状の構造を形成しています。

一方で、哺乳類などの動物の腸管内に生息するエンドリマクス属やヨードアメーバ属の種は、通常、運動性の鞭毛を持たないアメーバとして観察されます。これらの種は、宿主の腸内環境に適応し、宿主から栄養を得る片利共生者（あるいは一部は弱病原性を示すこともあります）として生活しています。

分類

マスチゴアメーバ科の生物は、その形態的特徴や生息環境から、原生動物の分類体系においてその位置づけが変遷してきました。古典的な分類では、鞭毛を持つことを根拠に、鞭毛虫類の動物性鞭毛虫綱に属する根鞭毛虫目（Rhizomastigida）に分類されていました。

しかし、分子生物学的な手法を用いた近年の系統解析により、その系統的な関係性が明らかになり、分類が見直されました。現在では、アメーバ動物門（Amoebozoa）に属するアーケアメーバ綱（Archamoebae）の一員と考えられており、ペロミクサ目（Pelomyxida）の中、または独立したマスチゴアメーバ目（Mastigamoebida）として位置づけられています。

マスチゴアメーバ科自体の構成属も、分子情報に基づいた系統解析の結果、変更されました。かつてはミトコンドリアを欠く鞭毛を持つアメーバとして、マスチゴアメーバ、マスチジナ（Mastigina）、マスチジェラ（Mastigella）の三つの属が含まれるとされていました。しかし、分子系統解析の結果、マスチジェラ属は同じアーケアメーバ綱ですが、マスチゴアメーバ科ではなくペロミクサ科に分類されることになりました。その一方で、形態的には鞭毛を持たないためかつてはエントアメーバ科（Entamoebidae）に分類されていたエンドリマクス属とヨードアメーバ属が、分子系統解析によりマスチゴアメーバ科のメンバーであることが示され、この科に組み入れられました。マスチジナ属については、十分な分子データが得られていないため、現在の分類上の明確な位置は確定していません。

以上の経緯から、現在のマスチゴアメーバ科は主にマスチゴアメーバ、エンドリマクス、ヨードアメーバの三つの属によって構成されています。ただし、マスチゴアメーバ属の中には、大型種を含む系統Aとそれ以外の系統Bという、遺伝的に明確に区別される二つの大きなグループが存在することが明らかになっており、属レベルでの分類学的な整理が今後の課題となっています。

構成属

マスチゴアメーバ属（Mastigamoeba）
淡水環境の底にある腐敗した有機物が多い泥の中で自由生活を送るグループです。典型的な種は一本の鞭毛を持ち、アメーバ運動と組み合わせて移動します。
代表的な種として、マスチゴアメーバ・バラームシー（Mastigamoeba balamuthi）などが知られています。

エンドリマクス属（Endolimax）
主に動物の腸管内に生息する比較的小型のアメーバです。宿主に対して通常は大きな病原性を示さない片利共生者と考えられています。鞭毛は観察されません。
ヒトの腸管にも広く分布する小形アメーバ（Endolimax nana）を含む、十種以上の種が記載されています。

ヨードアメーバ属（Iodamoeba）
この属の種も動物の腸管を主な生息場所とするアメーバです。運動性の鞭毛は持ちません。
特徴的なのは、栄養型のアメーバとは別に形成されるシスト（嚢子）内に、ヨウ素染色で濃く染まる大きな空胞（ヨード親和性空胞）を持つ点です。属名はこの特徴に由来します。
ヒトの腸管に寄生するヨードアメーバ・ビューチリー（Iodamoeba buetschlii）が最もよく知られている種であり、他に数種が報告されています。

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