マセラティ・ビトゥルボ

マセラティ・ビトゥルボ：名門ブランドの量産車への挑戦

マセラティは、1981年から1994年にかけて、ブランド初の量産車となる「ビトゥルボ」を製造しました。それまでスーパーカーメーカーとしての地位を確立していたマセラティにとって、量産車への進出は大きな転換点となりました。

ビトゥルボは、当初2ドア4人乗りクーペとして登場。その後、2座席オープンモデルや4ドアセダンもラインナップに加わり、多様な顧客層のニーズに対応しました。車名の「ビトゥルボ」はイタリア語で「ツインターボ」を意味し、その名の通り、石川島播磨重工業（現IHI）製のターボチャージャー2基を搭載したV6エンジンが大きな特徴でした。このエンジンは、マセラティの伝統と技術を継承したもので、高い動力性能を誇っていました。

ビトゥルボの開発背景には、1976年にシトロエンからデ・トマソへとオーナーが変わったマセラティの状況がありました。第一次オイルショックによる販売不振やシトロエンの経営危機を背景に、デ・トマソはマセラティのブランド力を活かした、より大衆向けのモデルの必要性を認識。2L級の4座席スポーティカーの開発に乗り出したのです。

設計はピエランジェロ・アンドレアーニが担当し、内外装デザインもマセラティ社内で行われました。内装はウッドパネルや本革をふんだんに使用した豪華な造り。フロント周りのデザインなど、当時主力だったクアトロポルテIII（のちロイヤルに改名）との類似性も確認できます。

1981年12月14日、マセラティの創業記念日に発表されたビトゥルボは、純粋なスポーツカーというよりは、スポーティな要素と高級感を融合させた乗用車という位置づけでした。車体寸法は同時代のBMW 323iよりもコンパクトながら、豪華な内装と高性能エンジンを搭載。価格はBMWを上回る、独自の高級路線を打ち出しました。

搭載されたアルミ製90度V6 SOHCツインターボエンジンは、メラクの2,000ccモデルをベースに開発されました。そのルーツを辿れば、マセラティの名技師長ジュリオ・アルフィエーリの設計したF1用V8エンジンに繋がる、高性能エンジンだったと言えるでしょう。

デビュー時の排気量は1,995cc、出力は180馬力。最高速度は215km/hに達しました。2,000ccを超える排気量には高額な税金が課せられるイタリアの税制事情を考慮し、輸出仕様として排気量2,491cc、出力185馬力の「ビトゥルボE」も設定されました。

ビトゥルボは当初、市場で高い人気を獲得し、年間生産台数は5,000台を超えることもありました。マセラティを救う大きな役割を果たしたと言えるでしょう。しかし、信頼性の低さや維持メンテナンスの難しさから、人気は徐々に下降。それでも、1994年にフィアット傘下入り後、後継モデルであるギブリIIやクアトロポルテIVでは信頼性が向上しています。

モデルの変遷

ビトゥルボは、クーペ、セダン、スパイダーの3つのボディタイプで展開されました。

2ドアクーペ: 1983年にはインタークーラー付きターボチャージャーを搭載した「ビトゥルボS」、1986年にはボッシュ製の電子燃料噴射システムを採用した「ビトゥルボi」「ビトゥルボSi」「ビトゥルボ2.5Si」が登場。1988年のマイナーチェンジで「ビトゥルボ」の名は消え、「マセラティ・2.24V」などの車名に変更されました。

4ドアセダン: 1983年に登場。クーペよりも長いホイールベースを持つことで、後席の居住性を向上。1986年以降はクーペ同様に燃料噴射システムを採用し、1990年以降は車名変更されました。

2ドアスパイダー: 1984年発表。ザガートによるオープンボディを架装。1991年以降は「スパイダーIII」に車名変更されました。

日本には、当時の総代理店であるガレーヂ伊太利屋を通じて多くのビトゥルボが輸入されました。豪華な内装は当時の日本市場で話題を呼び、ダッシュボード中央のアナログ時計は、三菱ディアマンテや日産ローレルなど、他社のデザインにも影響を与えたと言われています。ビトゥルボは、マセラティの歴史において重要な位置を占めるモデルであり、その存在は多くの人の記憶に残っています。

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