マセラティ・4CLT

マセラティ4CLT：戦後F1黎明期の雄姿

マセラティ4CLTは、マセラティ社が開発したシングルシーターのレーシングカーです。その前身である4CLをベースに、1948年に2段式スーパーチャージャーと管状シャシーを採用することで大幅な性能向上を実現しました。この「T」はTubular chassis（管状シャシー）を意味し、ねじれ剛性の向上によって、ツイン過給機による強力なエンジンのトルク増大に対応しました。エンジンの出力は4CLの220bhpから約260bhpに向上し、ローラーベアリングのクランクシャフト、鍛造リアサスペンション、油圧ダンパーなどの改良も施されました。

4CLT/48 サンレモ：輝かしいデビューと勝利

最初のモデルである4CLT/48は、1948年サンレモグランプリでデビューしました。アルベルト・アスカリが初勝利を飾り、「サンレモ」の愛称で親しまれることになります。アスカリを始め、ルイジ・ヴィッロレージ、レグ・パーネルらドライバーが活躍し、1948シーズンは5勝を挙げました。1950年のF1世界選手権初年度には、ルイ・シロンがモナコグランプリで3位入賞という好成績を収めました。改良型の4CLT/48は、1955年のイタリアグランプリ予選にも出場したものの、決勝には進出できませんでした。

1949年：更なる進化とライバルとの戦い

1949年には、ブレーキドラム、冷却システム、計器類などに改良が加えられ、4CLT/49と呼ばれるバージョンも存在しました。アスカリ、ヴィッロレージ、パーネルに加え、ファン・マヌエル・ファンジオ、エマヌエル・デ・グラッフェンリードといった名ドライバーがチームに加わり、15戦中9勝という圧倒的な強さを見せつけました。しかし、シーズン後半にはフェラーリやタルボといったライバル勢が台頭し、マセラティの勢いはやや衰えました。

1950-1951年：F1世界選手権参戦と改良

1950年、F1世界選手権がスタートしました。アルファロメオ158やフェラーリ、タルボといった強豪に対抗するため、4CLTのエンジンは更なる改良を受けました。マルチパートクランクシャフト、軽量化されたコンロッド、強化されたスーパーチャージャー、点火タイミング変更などにより、出力は280bhpに到達。車両重量も10kg軽量化され、アルファロメオに匹敵する性能を手に入れました。しかし、多くの改良が古い設計のエンジンには負担となり、マシントラブルも発生。シーズン唯一の勝利は、ファンジオが制したノンタイトル戦のポーグランプリでした。

1951年には、プリンス・ビラが4CLTのエンジンをオスカ製4,450cc V12エンジンに換装したマシンでグッドウッドで勝利を収めるも、世界選手権では振るいませんでした。

4CLT/50：テンポラダシリーズとF1

1949年後半には、サンレモの一部車両がテンポラダ・シリーズ（アルゼンチンのフォーミュラ・リブレ）用に排気量を拡大した4CLT/50に改造されました。1950年F1用車両も4CLT/50と呼ばれることがありますが、ファクトリーではテンポラダ用のみがそう呼ばれていました。

プラーテ4CLT：F2への転向

エンリコ・プラーテは、4CLT/48をF2レギュレーションに適合させたプラーテ4CLTを製作しました。過給機を取り外し、排気量を2.0Lまで拡大、軽量化とシャシー変更などにより、F2で戦えるマシンへと進化させました。

最後の輝きと衰退

1951年、デ・グラッフェンリードがリッチモンド・トロフィー、ジュゼッペ・ファリーナがパリグランプリで勝利を収めましたが、1952年からF1レギュレーションがF2に変更されたことで、重量過多でパワー不足の4CLTは時代遅れとなりました。4CL/4CLTは長く活躍しましたが、戦後の小型軽量なマシンが登場したことで、その役割を終えました。現在も多くの4CL/4CLTが現存し、クラシックカーイベントなどでその雄姿を見ることができます。

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