マチルダI歩兵戦車

歩兵戦車Mk.Ⅰ マチルダⅠ：戦間期のイギリス歩兵支援戦車

歩兵戦車Mk.Ⅰ、通称マチルダⅠは、1930年代半ばのイギリスで開発された歩兵戦車です。当時の生産コストは約1万5000ポンドとされ、重装甲と低コストを両立した設計が特徴でした。その愛称である「マチルダ」の由来は諸説あり、オーストラリアの非公式国歌にちなむ説や、兵器総監の命名による説などがあります。制式名称である「歩兵戦車Mk.Ⅰ」は1940年6月の陸軍評議会で決定されました。

開発と設計

1934年、敵の対戦車砲にも耐えうる小型で重装甲な歩兵支援戦車として設計要求が出され、ヴィッカース・アームストロング社が開発に着手しました。低コストでの量産を目指し、既存の部品を多く流用した結果、コストを抑えることができました。

設計はサー・ジョン・カーデンが担当しましたが、彼は開発中の1935年12月に飛行機事故で亡くなりました。その後も開発は続けられ、試作車のテストを経て改良が加えられました。1936年にはイギリス陸軍が戦車を「歩兵戦車」と「巡航戦車」のカテゴリーに分けて開発する方針を決定し、マチルダⅠはイギリス初の歩兵戦車に分類されました。1937年4月に最初の発注が行われ、1940年8月までに約140両が生産されました。

設計思想と性能

マチルダⅠの設計思想は第一次世界大戦の戦車と変わりませんでした。「動く機銃座」として歩兵を直接支援することを目的として開発されました。乗員は操縦手と車長兼機銃手の2名で、車体は前後にタンデム配置されていました。前面装甲厚は65mmに達し、車体構造強度を装甲板自身で支える設計だったため、内部フレームは存在しませんでした。

車体前部の操縦席両脇には備品収納箱が設置されており、リアエンジン・リアドライブ方式で、コスト削減のためフェンダーは省略されていました。70馬力のエンジンを搭載していましたが、11.2トンの車体重量に対してはアンダーパワーで、路上最大速度は12.9km/hと非常に遅かったものの、歩兵支援としては十分な速度とされました。武装は重機関銃1挺のみで、敵陣地への攻撃は履帯による蹂躙に頼ることが多かったとされます。

運用とその後

マチルダⅠは西方電撃戦などでも使用されました。重装甲は対戦車砲からの攻撃によく耐えましたが、重機関銃1挺のみの武装では火力不足であり、すぐに第一線を退き、その後は訓練用車両として使用されました。その小型軽量さ、そして重機関銃1挺のみという武装は、当初から「機銃1挺を運搬するには不経済」との批判もありました。量産開始前の1937年には、より大型で武装も強化された後継車両であるマチルダⅡの開発が始まっていました。現在では、ボービントン戦車博物館で現存する2両のマチルダⅠを見ることができます。

まとめ

歩兵戦車Mk.Ⅰ マチルダⅠは、重装甲と低コストを両立した、戦間期のイギリスにおける重要な歩兵戦車でした。その設計思想や運用実績、そして現在まで残る車両は、戦車開発史において重要な資料となっています。その後のマチルダⅡなど、より強力な歩兵戦車の登場によって、すぐに第一線から退いたものの、その存在は、後の戦車開発に影響を与えたと言えるでしょう。

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