マッチング・モウル

マッチング・モウル（Matching Mole）

1970年代前半、イングランドのプログレッシブ・ロック・シーンにおいて、わずかな活動期間ながらも強い印象を残したバンド、それがマッチング・モウルです。このグループは、カンタベリー・シーンの中心的存在であったソフト・マシーンを脱退したドラマー兼ボーカリスト、ロバート・ワイアットによって立ち上げられました。

バンド名の「Matching Mole」は、ソフト・マシーン（Soft Machine）のフランス語読みにあたる「マシーヌ・モル（Machine Molle）」をもじった言葉遊びから来ています。その意図するところは「そっくりモグラ」であり、元メンバーのデイヴ・シンクレアは後に「マシーン・モール」とコメントするなど、バンド名自体にも彼ららしい遊び心が込められていました。

バンドの歩み

マッチング・モウルは1971年の終わりにその活動を開始します。初期メンバーはロバート・ワイアット（ドラム、ボーカルなど）、デイヴ・シンクレア（オルガン、ピアノ）、フィル・ミラー（ギター）、ビル・マコーミック（ベース）という布陣でした。この第1期メンバーは、1972年初頭にファースト・アルバム『そっくりモグラ』を録音しました。この制作時には、デイヴ・マクレエがエレクトリック・ピアノでゲスト参加しています。

1972年3月にはメンバーチェンジが行われ、デイヴ・シンクレアに代わってデイヴ・マクレエが正規メンバーとしてエレクトリック・ピアノなどを担当する第2期がスタートします。この編成で、同年セカンド・アルバム『そっくりモグラの毛語録』が制作されました。このアルバムは、キング・クリムゾンのロバート・フリップがプロデュースを手がけ、ロキシー・ミュージックのブライアン・イーノ（当時はイーノ名義）がシンセサイザーで、その他にもデヴィッド・ゲイル、ジュリー・クリスティ、アルフリーダ・ベンジらがボイスでゲスト参加するという、非常に豪華な顔ぶれが実現しました。しかし、このセカンド・アルバム発表後、バンドは一度活動を停止します。

再結成の試みと悲劇

バンドは翌1973年に、ロバート・ワイアット、ビル・マコーミックに加え、新たにフランシス・モンクマン（キーボード）、ゲイリー・ウィンド（サックス）という第3期のメンバーで再始動を試みます。サード・アルバムに向けたリハーサルが行われるなど、新たな展開が期待されていました。この再結成の構想段階では、ヘンリー・カウのギタリスト、フレッド・フリスの名前も候補に挙がっており、フリス自身も参加に前向きだったと言われています。

しかし、1973年6月1日、その後のバンドの運命を決定づける悲劇が起こります。ロバート・ワイアットがパーティー中に不慮の事故で転落し、脊髄に重傷を負ってしまったのです。この事故によりワイアットは下半身不随となり、ドラマーとしての活動が不可能となりました。これにより、マッチング・モウルの再結成計画は無念にも頓挫してしまいます。

ワイアットは多くの音楽仲間たちの支援を受けながら、シンガーおよびキーボード奏者として困難な状況から再び音楽活動を始め、ソロ・アーティストとして成功を収めていきます。また、マッチング・モウルのサード・アルバムのために用意されていた楽曲の一部は、後に彼のソロ名義で発表された傑作アルバム『ロック・ボトム』（1974年）に収録され、バンドの残した構想の一部が日の目を見ることとなりました。

ディスコグラフィ

バンドが公式にリリースしたスタジオ・アルバムは以下の2枚です。

『そっくりモグラ』 (Matching Mole) - 1972年
『そっくりモグラの毛語録』 (Matching Mole's Little Red Record) - 1972年

活動停止後も、主に第2期のライブ音源を中心に、いくつかのライブ・アルバムが発表されています。

『ライヴ・イン・コンサート』 (BBC Radio 1 Live In Concert) - 1994年
『まっすぐモグラ』 (Smoke Signals) - 2001年
『マーチ』 (March) - 2002年
『オン・ザ・レディオ』 (On The Radio) - 2006年

また、ロバート・ワイアットのオムニバス盤などにも、彼らの楽曲が収録されています。

マッチング・モウルは短い活動期間ではありましたが、ロバート・ワイアットの実験的な音楽性、ソフト・マシーンを含むカンタベリー・シーンの才能あるミュージシャンたちの交流、そしてその後のワイアットのソロ活動へと繋がる重要な足跡を残しました。彼らの作品は、70年代初頭の英国プログレッシブ・ロックの一つの側面を示す貴重なものとなっています。

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