マツダ・カスタムキャブ

マツダ・カスタムキャブ：小型タクシー市場を駆け抜けた異端児

マツダ・カスタムキャブは、1989年から1995年にかけて製造された、小型タクシー専用車です。同社の小型タクシーはそれまでカペラが担っていましたが、FF駆動による整備性の悪さと、競合車種に比べて高価だったことから、シェア拡大が課題となっていました。そこでマツダは、実用性を重視した新たな小型タクシーの開発に着手しました。

その結果誕生したのが、カスタムキャブです。ベース車両には、生産終了した4代目ルーチェ(HB型)が用いられました。ルーチェは全長4,600mmを超える中型タクシー規格の車でしたが、カスタムキャブではフロントとリア部分を改良。オーバーハングを短縮することで、全長を小型タクシー規格の4,590mmに収めました。

ベースとなったルーチェの設計は古かったものの、車体の大きさや価格の安さが功を奏し、カペラやルーチェ以上に全国的に普及しました。1989年当時のタクシー業界では、トヨタ・マークIIや日産・ローレルといった上級車種への大型化が進んでいた時代背景もあり、カスタムキャブは独自の地位を築きました。

カペラもタクシー仕様車が販売されていましたが、整備性の問題からカスタムキャブと並行して販売されました。しかし、1991年にカペラがフルモデルチェンジし、クロノス/MS-6/MX-6へと進化。クロノスは全幅が1,700mmを超え、小型タクシー規格に適合しなかったため、カペラのタクシー仕様車は廃止されました。

カスタムキャブの生産終了は、1996年以降に義務化された強化された衝突安全基準への対応が困難だったことが大きな要因です。加えて、マツダ側のリストラ政策も影響し、1995年12月に生産を終了。これにより、マツダはタクシー車市場から撤退しました。

その後、センティア、ミレーニア、カペラ、アテンザといったマツダ車が個人タクシーを中心に少数使用されましたが、これらはディーラーによる架装を施したもので、公式なカタログモデルではありませんでした。現在でも、MAZDA6などがありますが、全幅が1,700mmを超えるため小型タクシー規格には適合しません。ただし、全幅制限を撤廃し、全長制限のみの地域ではアクセラを小型タクシーとして使用することが可能でした。また、中型・小型タクシーの枠が統合された地域では、アテンザやMAZDA6も使用可能です。

カスタムキャブの総販売台数は1万5千台程度と推定されています。販売台数の多かった地域は京都、北九州、広島などでした。

1992年にはマイナーチェンジが行われ、SG-Lグレードが追加されました。外観はサイドフラッシャーの追加やハイマウントストップランプの装備など、細部の改良が施されています。また、操作性の向上のためハザードスイッチの位置変更も行われています。

グレードは、個人タクシー向けの上級グレードSG-SとSG-L、法人タクシー向けの廉価版DXの3種類が存在しました。SG-Sにはパワーウィンドウやモケットシート、カセットデッキなどが装備され、高級感を演出していました。エンジンはFE型2,000cc直列4気筒SOHCのLPGエンジンを搭載し、5速MTと4速ATが選択可能でした。最高出力は64馬力で、当時の競合車に比べて非力でしたが、価格競争力では優位に立っていました。しかし、競合車のマイナーチェンジや新型車の登場により、価格以外のメリットが薄れていくことになります。

カスタムキャブは、その時代の背景やマツダの戦略、そしてタクシー業界の動向を反映した、個性的な存在でした。生産終了から年数が経過していますが、その存在は今でも多くのタクシー関係者やマツダファンに記憶されています。

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