マツダ・クラフト

東洋工業（現マツダ）がかつて生産していた小型トラック、「クラフト」。1965年、先行するロンパーおよびDシリーズの後継機種として市場に投入され、日本の高度経済成長期における物流の一端を担いました。

その名は、力強い働きを期待された本モデルにふさわしく、ドイツ語で「力強さ」を意味する「Kraft」に由来しており、英語の「技巧」（Craft）とは一線を画す命名哲学が貫かれていました。

マツダのトラックラインアップにおいて、クラフトは重要なニッチを埋める存在でした。より軽量で乗用車派生のファミリアトラックやボンゴトラックと、本格的な2トン積みトラックであるタイタン（初期にはE2000としても知られた）の中間的なポジションに位置づけられ、幅広い輸送ニーズに対応できる中核モデルとして期待されました。主な仕様としては、1トン積載と1.5トン積載のモデルが設定され、ユーザーの用途に応じた選択肢が提供されました。また、トラックをベースとしながらも、人を運ぶためのマイクロバス仕様も存在しました。これは、より大型のライトバスやパークウェイといった車種よりも小さなクラスに属し、送迎用など、きめ細やかなニーズに対応可能な車両として展開されました。

クラフトの生産・販売は、1965年（昭和40年）6月に開始されました。当時の日本の経済状況は活況を呈しており、小型トラックの需要も高まっていた中で、クラフトは効率的な物流を支えるツールとして受け入れられました。

登場から5年が経過した1970年（昭和45年）、クラフトは初めての本格的なマイナーチェンジを迎えます。この改良では、特にエクステリアデザインに手が加えられ、フロントマスクの印象が大きく変化しました。それまで左右に2灯ずつ配置されていた丸型4灯式のヘッドランプは、視認性の向上とスタイリングの変更を目的として、よりモダンな角型2灯式へと改められました。同時に、フロントグリルも上下に分割されたデザインから、横方向への広がりを強調した一体型のデザインへと変更され、全体のデザインに統一感が生まれました。

さらに1973年（昭和48年）には、2度目のマイナーチェンジが実施されました。この時の改良の焦点の一つは、ボディカラーの見直しでした。特に、クラフトのイメージカラーの一つともいえる緑色の色合いが変更されました。また、車両の型式名もこのタイミングで改められ、従来のDUD9型からDUE9型へと変更されるなど、内部的な仕様にも変更が加えられたことが示唆されます。

約12年間の生産活動を経て、クラフトは1977年（昭和52年）5月にその役目を終えました。販売終了の背景には、マツダにおけるトラックラインアップの整理・統合がありました。クラフトのポジションは、この時期に既に登場していた初代タイタンへと吸収される形となり、タイタンがマツダの主力トラックとして、クラフトが担っていた積載クラスの一部もカバーすることになりました。

クラフトはマツダ（旧東洋工業）のトラックファミリーの一員として、ロンパー、Dシリーズといった前身、そしてボンゴやタイタンといった同時代や後継のトラックと技術的、市場的な繋がりを持ちます。また、1970年代に放送された人気テレビドラマ「お荷物小荷物」およびその続編「お荷物小荷物・カムイ編」では、主人公が運転するトラックとして登場し、当時の人々に親しまれた車両としても記憶されています。

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