マティアス・ヤーコプ・シュライデン

マティアス・ヤーコプ・シュライデン（Matthias Jakob Schleiden）は、1804年4月5日に現在のドイツにあたる神聖ローマ帝国領ハンブルクで生まれた、著名な植物学者、生物学者です。彼の父親は地元の医師でした。

波乱の経歴と学問への転身

シュライデンは、当初植物学や生物学とは異なる道を歩んでいました。彼はルプレヒト・カール大学ハイデルベルクで法学を学び、1826年に法学の博士号を取得しました。その後、故郷ハンブルクで弁護士として活動を始めますが、この仕事では成功を収めることができませんでした。弁護士業での挫折は彼を深く苦しめ、1832年には自殺未遂を起こすほどの失意を経験します。

この出来事を契機に、シュライデンは人生の方向転換を図ります。彼は法曹界から離れ、長年関心を抱いていた自然科学の世界へと足を踏み入れました。ゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲンで医学を修めた後、さらに植物学への関心を深め、フンボルト大学ベルリンでも植物学を学びました。

細胞説の提唱

シュライデンの最も偉大な業績は、近代生物学の基礎を築いた「細胞説」の提唱にあります。彼は1838年、フンボルト大学ベルリンで研究していた動物学者テオドール・シュワンと知り合いました。二人は食事を共にしながら学術的な議論を交わす中で、生物の構造に関する重要な着想を共有しました。

シュライデンは植物を研究する中で、すべての植物体が細胞から成り立っているという考えに至っていました。一方、シュワンも動物組織の構成単位として細胞を認識していました。二人の議論を通じて、「すべての生物は細胞を基本単位として構成されている」という共通の認識が生まれました。

この着想に基づき、シュライデンは1838年に論文『植物発生論（Beiträge zur Phytogenesis）』を発表し、「植物は独立した細胞の集合体」であるという植物の細胞説を提唱しました。翌1839年には、シュワンが論文『動物及び植物の構造と成長の一致に関する顕微鏡的研究』を発表し、動物もまた細胞から構成されていることを示しました。

シュライデンとシュワンによるこれらの研究は、細胞説という画期的な概念を確立し、その後の生物学研究に計り知れない影響を与えました。現在、「細胞説」といえば、彼ら二人の名がまず挙げられます。

その他の貢献と大学での活動

細胞説の提唱に加えて、シュライデンは植物学の研究手法に対しても革新的な提言を行いました。当時の主流であった乾燥標本を用いた分類学的な研究手法に対し、彼は強い批判を向けました。代わりに、植物の生理や発生といった生命現象を詳細に理解するためには、顕微鏡をはじめとする物理学的、化学的な分析器具を積極的に導入すべきであると主張しました。

1839年からは、フリードリヒ・シラー大学イェーナで植物学の助教授として教鞭を執り始めました。1850年には同大学の正教授に昇進し、1862年まで研究と教育に従事しました。ただし、このイェーナ大学時代には、「核が成長して細胞になる」という、後に誤りであることが判明する説を発表したこともあります。

1863年から1864年にかけては、ドルパート大学（現在のエストニア、タルトゥ大学）に招かれ、植物学の教授を務めました。

晩年

大学教授としての職を退いた後、シュライデンは一カ所に定住することなく、ドレスデンをはじめドイツ各地を転々としました。晩年はフランクフルト・アム・マインに居を定め、文筆活動を行いました。この時期には、生物学だけでなく哲学や歴史学にも深い関心を示し、ドイツの哲学者ヤーコプ・フリードリヒ・フリースに影響を与えたとされています。シュライデンは、1881年6月23日、フランクフルト・アム・マインで77年の生涯を閉じました。

彼の功績は今日まで称えられており、小惑星番号37584の小惑星には、彼の名にちなんで「シュライデン」と名付けられています。

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