マテバシイ

マテバシイ（Lithocarpus edulis）の詳細解説

マテバシイは、ブナ科マテバシイ属に分類される常緑高木です。最大で樹高20m、胸高直径1m程度にまで成長し、美しい樹冠を形成します。日本では、本州の房総半島から南西諸島にかけての温暖な沿岸地域に自生し、古くから人々の生活と深く関わってきました。

形態

樹形: 常緑広葉樹で、比較的整った樹冠を持ちます。幹は灰褐色で滑らかですが、時に縦筋模様が見られることがあります。若枝は無毛です。
葉: 日本産のブナ科樹木の中では最大級で、20cmを超えることもあります。葉は倒卵形で、先端は鋭く尖り、縁には鋸歯がありません。葉身は厚く革質で、表面は光沢のある濃緑色、裏面は灰緑褐色で細かい鱗毛が生えています。
花: 初夏に開花し、雌雄同株です。花穂は直立し上を向き、動物の精液に例えられる独特の匂いを出します。雄花穂と雌花穂は同じ枝にできるか、または別々にできます。雌花が根元側、雄花が先端側に付くことが多いです。花粉は長球形で、毛糸玉のような模様があります。
果実: 受粉から結実まで2年かかるドングリです。長さ2～3cmで細長い形状をしており、浅い椀状の殻斗を持ちます。ドングリは日本産の中では最も硬いとされています。
根: 成木は地際でよく分岐し、水平にも垂直にもよく根を伸ばします。稚樹のうちは直根の発達が著しいです。
冬芽: 球形で淡緑色の複数の芽鱗に包まれており、葉の付け根に付きます。枝先には花芽が数個つきます。

類似種

同属のシリブカガシとは、若枝の毛の有無、葉の大きさ、ドングリの色などで区別できます。

生態

共生: 他のブナ科樹木と同様に、菌類と共生して菌根を形成します。菌根は、樹木の栄養吸収を助け、病原微生物から保護する役割を果たします。土壌中には、菌糸を通して他の植物と繋がるネットワークが存在すると考えられています。
種子散布: ドングリは、重力やネズミなどの小動物によって散布されます。マテバシイのドングリは渋みが少なく、動物に食べられやすいのが特徴です。
耐陰性: 苗木は日陰でも成長できます。
寄生: オオバヤドリギ科のヤドリギ類の寄生を受けやすい樹種です。
林床: マテバシイの落ち葉は厚く積もり、保水力があります。マテバシイ林は、スギ林などと比べて種多様性が低い傾向があります。
攪乱: 台風などの攪乱の影響を受けやすいです。
食草: ムラサキツバメの幼虫は、マテバシイの葉を食草とします。

ナラ枯れ

マテバシイは、ナラ枯れという病気によって枯損被害を受けることがあります。この病気は、カシノナガキクイムシによって媒介される菌類が原因で発生します。マテバシイはナラ枯れに対して比較的感受性が高く、大径木ほど被害を受けやすい傾向があります。

分布

本州の房総半島南端、紀伊半島、四国、九州から南西諸島にかけて分布しています。温暖な沿岸地域に自生し、関東地方に多いです。

人間との関係

植栽: 防風林や防火林、生け垣として利用され、公園や街路樹にも適しています。耐火性が高く、大気汚染にも強いとされています。
食用: ドングリは、アク抜きなしで炒って食べることができます。ただし、味はスダジイやツブラジイに比べて劣ると評価されています。お菓子やお茶の原料としても利用されます。
薬用・飼料: マテバシイ林には菌根性のキノコが発生し、一部は食用になります。天蚕の飼育にも利用されることがあります。
* 木材: 木材は、ノリ養殖用のヒビとして利用されていました。おが屑はきのこの菌床栽培の培地として使われます。

名称

標準和名「マテバシイ」の由来は、九州地方の方言名に由来すると考えられています。「マテ」は、葉の形が刀に似ていることや、葉が密に茂る様子を表すなど諸説ありますが、はっきりとはわかっていません。種小名「edulis」は、「可食の」という意味で、ドングリが食べられることに由来します。

その他

マテバシイは、その生態や利用価値から、人々の生活に深く関わってきた樹木です。今後も、その価値が見直され、様々な分野で活用されることが期待されます。

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