マテーラの洞窟住居

マテーラの洞窟住居：歴史と文化が織りなす世界遺産

イタリア南部のバジリカータ州に位置するマテーラは、その独特な景観で知られる都市です。特に有名なのは、「サッシ」と呼ばれる洞窟住居群で、これはユネスコの世界遺産にも登録されています。このサッシは、石灰岩の渓谷に掘られた洞窟を利用した住居で、その起源は古代にまで遡ると考えられています。

サッシ：洞窟住居の歴史

サッシとは、この地域の方言で「石」や「岩」を意味する「サッソ」の複数形です。マテーラが位置するグラヴィナ渓谷は、石灰岩の浸食によって形成され、その斜面に沿ってサッシが何層にも重なるように存在しています。正確な起源は不明ですが、8世紀から13世紀にかけて、東方から逃れてきた修道士たちが130以上の洞窟住居を築いたとされています。また、マテーラ周辺からは旧石器時代の遺物も発見されており、この地域が古くから人々の居住地であったことが伺えます。

15世紀から16世紀には、オスマン帝国の侵攻を逃れたアルバニア人やセルビア人などが移住してきました。当時マテーラを支配していたアランゴーナ家は、この地をジャンカルロ・トラマンターノ伯爵に売却。しかし、伯爵が住民に重税を課したため、反発した住民によって伯爵は殺害されました。17世紀にはバジリカータ州の州都となり繁栄しましたが、その後州都がポテンツァに移され、経済的に衰退していきました。

19世紀までサッシは比較的快適な住環境でしたが、20世紀に入ると人口が急増し、採光や水の流れが劣悪な洞窟も住居として使われるようになりました。これにより衛生状態は極度に悪化し、乳児死亡率が50％に達する事態となりました。この状況を改善するため、1950年代に政府は郊外に集合住宅を建設し、サッシ地区の住民を強制的に移住させました。その数は約1万5000人に上ります。

世界遺産としての再生

サッシ地区は一時的に無人の廃墟と化しましたが、150以上の石窟聖堂や3000戸もの洞窟住居、そして地下水路による貯水システムなど、その独特な文化遺産が見直され、1993年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。この登録をきっかけに観光客が増え、宿泊施設やレストラン、工芸品店などがオープンし、現在では洞窟住居の約5分の1が再利用されています。

マテーラの見どころ

サッシの中心には、13世紀に建てられた石造りのドゥオモ、マテーラ大聖堂があります。周辺には、サンタ・マリア・デ・イドリス教会やサン・ジョヴァンニ・イン・モンテローネ教会など、歴史的な教会が点在しています。

また、世界遺産登録外ですが、グラヴィナ渓谷の反対側には旧石器時代の集落跡であるムルジェッキアが発見されています。

マテーラへのアクセス

マテーラへのアクセスは、バスや鉄道を利用できます。SITA社のバスは、マテーラとターラントを結び、マロッツィ社のバスはマテーラとローマを結んでいます。鉄道は、フェッロヴィエ・アップロ・ルカーネ社がマテーラとバーリを結んでいます。バスターミナルと鉄道駅は、新市街のマッテオッティ広場付近に位置しています。

世界遺産登録基準

マテーラの洞窟住居は、以下の世界遺産登録基準を満たし、登録されました。

(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
(5) ある文化（または複数の文化）を代表する伝統的集落、あるいは陸上ないし海上利用の際立った例。もしくは特に不可逆的な変化の中で存続が危ぶまれている人と環境の関わりあいの際立った例。

映画の舞台としてのマテーラ

マテーラは、その独特な景観から数多くの映画のロケ地としても利用されています。有名な作品には、以下のようなものがあります。

奇跡の丘（1964年）
エボリ（1979年）
明日を夢見て（1995年）
パッション（2004年）
マリア（2006年）
オーメン（2006年）
ベン・ハー（2016年）
ワンダーウーマン（2017年）
マグダラのマリア（2018年）
* 007 ノー・タイム・トゥ・ダイ（2020年）

また、漫画「D.Gray-man」に登場する都市「マテール」は、マテーラをモデルとしています。


マテーラの洞窟住居は、その独特な景観と歴史的背景から、世界中から多くの観光客が訪れる魅力的な場所です。古代から人々の生活を支えてきたこの場所を訪れ、その歴史と文化に触れてみてはいかがでしょうか。

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