マトラ・MS10

マトラ・MS10：革新と勝利の軌跡

マトラ・MS10は、フランスのマトラ・インターナショナルが1968年のF1世界選手権参戦のために開発したフォーミュラ1カーです。同社のF1参戦における最初の専用マシンであり、姉妹車であるV12エンジン搭載のMS11と共に、マトラのF1における歴史を彩る重要な1台となりました。

開発の背景とコンセプト

マトラはフォーミュラ2で成功を収めた後、独自のV12エンジンを搭載したF1マシン開発に着手しました。しかし、当時フォーミュラ2チームを率いていたケン・ティレルは、コスワースDFVエンジンの圧倒的な性能に注目。マトラに対し、DFVエンジンを搭載したマシンの開発を提案します。

この結果、ワークスチームはV12エンジン搭載のMS11を、ティレルのチームにはV8エンジンを搭載したMS10が供給されることになりました。MS10の最大の特徴は、航空機技術に着想を得た革新的な燃料タンクです。このゴム製のバッグタンクは軽量化に大きく貢献し、シャシー重量は約15kgも削減されました。その結果、MS10は競合他車に対して、圧倒的なパフォーマンスを発揮することになります。しかし、この革新的な技術は安全面からFIA（国際自動車連盟）によって1970年に禁止されてしまうのです。

ジャッキー・スチュワートとMS10

BRMでの活躍が振るわなかったジャッキー・スチュワートは、1968年にティレルのフォーミュラ2チームに移籍。そして、F1マシンであるMS10のハンドルを握ることとなります。開幕戦の南アフリカグランプリでは暫定車両のMS9で出場、予選3番手という好成績を残すも、決勝ではエンジントラブルによりリタイア。その後、負傷による欠場をはさみつつ、スチュワートはMS10でのレースに臨みました。

シーズン中盤からは、空力性能向上のため、エアロフォイル（ウィング）の実験が開始されました。イタリアグランプリやアメリカグランプリでは、高い位置にマウントされたウィングを装着したMS10が走行。このハイマウントウィングは、後に安全上の理由から禁止されることになります。1969年の南アフリカグランプリでは、前後に2つのウィングを取り付けたMS10も登場しています。一方、他のレースでは、低い位置にマウントされたウィングが使用されました。

シーズン後半には2台目のMS10が投入され、ジョニー・セルボ＝ギャバンがドライブ。スチュワートはMS10を駆り、3勝を挙げ、ランキング3位を獲得。マトラ・インターナショナルもコンストラクターズランキング3位という好成績を収めました。

1969年シーズンとその後

1969年シーズンの開幕戦南アフリカグランプリでは、スチュワートがMS10で優勝を飾りました。しかし、その後はMS80にマシンが変更され、MS10は1戦のみの使用となりました。MS10は、革新的な技術と高いポテンシャルを秘めたマシンでしたが、短期間での活躍となりました。それでも、F1の歴史にその名を刻む、重要なマシンであることに変わりはありません。MS10の開発で培われた技術は、後のマトラのF1活動に大きな影響を与えたことは間違いありません。その革新的な燃料タンクや空力デバイスは、後のF1マシン開発にも少なからず影響を与え、現代のF1マシンの進化に貢献したと言えるでしょう。

まとめ

マトラMS10は、短期間の活躍ながらも、F1の歴史に大きな足跡を残した名車です。軽量かつ高性能なマシンとして、ジャッキー・スチュワートらドライバーの活躍を支え、マトラ・インターナショナルの躍進に貢献しました。革新的な技術と高いポテンシャルを備えながらも、安全性の問題や、更なる進化を遂げた後継車が登場したことで、その短いキャリアに幕を閉じました。しかし、その存在は、F1の歴史において常に記憶されるべき存在と言えるでしょう。

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