マトラ・MS84

マトラ・MS84：革新的な四輪駆動フォーミュラ1マシン

1969年のF1世界選手権を舞台に、マトラは革新的なフォーミュラ1マシン、マトラ・MS84を投入しました。パリ南西部のヴェリジー＝ヴィラクブレーにあるマトラの開発拠点で、ベルナール・ボイヤー率いるチームによって生み出されたこのマシンは、フォード・コスワース DFVエンジンを搭載した四輪駆動という、当時としては非常に珍しい仕様を誇っていました。

開発と設計：挑戦的な技術

MS84の開発は、マトラによる全面的な技術サポートとエルフからの資金援助を受けて、ケン・ティレルのマトラ・インターナショナルによって進められました。同じ1969年シーズンに活躍したMS80と類似点は見られますが、MS84はアルミモノコックではなく鋼管スペースフレームシャシーを採用。そして最大の相違点は、四輪駆動システムにあります。エンジンは逆向きに搭載され、ギアボックスはドライバーの背後に配置されるという、独特のレイアウトが採用されました。さらに、サスペンションシステムはトニー・ロルトが設計したフォード・マスタングのものと類似した設計でした。

ファーガソン製のトランスミッションなど、搭載された装備はMS80よりもはるかに重量級で、燃料を除いた重量は635kgにも達しました。この重量増加は、四輪駆動システムによる複雑な機構が主な要因と考えられます。

レースでのパフォーマンス：光と影

MS84はオランダグランプリでデビューを果たしましたが、ジャッキー・スチュワートはMS80を選択し、シーズンを通してMS80を駆り続けました。MS84はその後、スペアカーとして数々のグランプリに持ち込まれ、イギリスグランプリでジャン＝ピエール・ベルトワーズが初めて決勝レースに投入しました。ベルトワーズは9位でフィニッシュしましたが、スチュワートの駆る二輪駆動のマトラと比較すると6周遅れという結果でした。しかし、これは同時に、ジョン・マイルズが駆る四輪駆動車ロータス・63よりも3周速かったことを意味しています。

カナダグランプリではジョニー・セルボ＝ギャバンがMS84をドライブし、6位に入賞しました。しかし、このレースではフロントディファレンシャルの故障により、MS84は「インボードフロントブレーキを備えた重いMS80」のような状態になって走行したと伝えられています。アメリカグランプリでは16周遅れでリタイア、メキシコグランプリでは2周遅れの8位という結果に終わりました。

まとめ：先駆的な試み

マトラ・MS84は、当時としては非常に先進的な四輪駆動システムを採用した、挑戦的なマシンでした。その革新的な技術は、レースでの成績こそ振るわなかったものの、フォーミュラ1の歴史において重要な一歩を刻んだと言えるでしょう。高いポテンシャルを持ちながらも、信頼性の問題や重量の問題など、克服すべき課題も多く残した、F1の歴史における興味深い1ページを飾るマシンです。MS84の開発を通して得られた経験と技術は、後のマトラのF1活動に大きな影響を与えたことは間違いありません。その挑戦的な精神は、現代のF1技術開発にも通じるものがあります。

参考文献

Matra : La Saga by Jose Rosinski - E.T.A.I. 2001
Information about the MS84 at primotipo.com

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