マニウス・オタキリウス・クラッスス

マニウス・オタキリウス・クラッスス（ラテン語: Manius Otacilius Crassus）は、共和政ローマの中期、特に第一次ポエニ戦争の時代に政治家および軍人として活動した人物です。彼の正確な生没年は残念ながら現代には伝わっておらず、不明とされています。また、紀元前261年に同じく執政官を務めたティトゥス・オタキリウス・クラッススは、彼の兄弟であった可能性が高いと歴史研究者たちは推測しています。

彼の経歴において最も注目されるのは、二度にわたる執政官への就任です。

第一次ポエニ戦争初期の活動（紀元前263年）

マニウス・オタキリウス・クラッススが初めて執政官に選出されたのは、第一次ポエニ戦争が始まった翌年の紀元前263年でした。この戦争は、前年の紀元前264年にシケリア島（現在のシチリア島）の都市メッセネ（現在のメッシーナ）を掌握していたマメルティニという傭兵集団がローマに救援を求めたことに端を発します。ローマはこれに応じ、前年の執政官アッピウス・クラウディウス・カウデクスをシケリアに派遣。彼は島の有力者であるシュラクサイの僭主ヒエロン2世や、これと結んだカルタゴ軍と戦闘を行い、これが後の長期にわたるポエニ戦争へと発展していきました。

紀元前263年、マニウス・オタキリウス・クラッススはマニウス・ウァレリウス・マクシムスと共に執政官に就任します。両執政官はそれぞれ二個軍団を率いる大兵力を伴ってシケリア島へと派遣されました。彼らが率いるローマ軍は、島に到着後、積極的な軍事行動を開始しました。まず、アドラノン（現在の地名：アドラーノ）を攻略することに成功します。さらに、ケントリペ（現在のチェントゥーリペ）に対して包囲網を敷くと同時に、シケリア島内の他の複数の都市も次々と制圧し、ローマの勢力下に組み込んでいきました。

これらの軍事的な成功は、シュラクサイの僭主ヒエロン2世に大きな圧力を与えました。執政官指揮下のローマ軍は勢いに乗ってシュラクサイへと進軍し、ヒエロン2世に対して平和条約の締結を強いるに至ります。この条約によってシュラクサイは事実上ローマ側につき、その影響力は、この戦争の初期における戦局を大きく左右しました。それまでメッセネを包囲していたカルタゴ軍は、シケリア最大の同盟者であったシュラクサイがローマに寝返ったことで戦略的に不利な状況に陥り、やむなくメッセネの包囲を中止して撤退しました。

この一連の功績はローマに多大な利益をもたらしましたが、それに伴う栄誉は二人の執政官に平等に与えられませんでした。同僚であったマニウス・ウァレリウス・マクシムスは、この戦役での成功を高く評価され、ローマ市内で凱旋式を行うことを許されただけでなく、「メッサラ」という輝かしいコグノーメン（家族名や渾名として用いられた名）を与えられました。しかし、マニウス・オタキリウス・クラッススに対しては、凱旋式を含む特別な栄誉は与えられなかったと記録されています。

二度目の執政官就任（紀元前246年）

最初の執政官就任から長い歳月を経た紀元前246年、マニウス・オタキリウス・クラッススは再び共和政ローマの執政官に選ばれました。この時の同僚執政官はマルクス・ファビウス・リキヌスです。第一次ポエニ戦争はまだ継続中であり、この二人の執政官も、おそらく再び主戦場であったシケリア島へと遠征し、ローマ軍の指揮を執ったものと考えられています。彼が二度目の執政官を務めたことは、ローマが長期にわたる戦争遂行のために、経験豊富な人材を重用していたことを示唆していると言えるかもしれません。

このように、マニウス・オタキリウス・クラッススは、第一次ポエニ戦争という国家存亡をかけた重要な時期に、ローマの最高指導者である執政官として、特に戦争初期におけるシケリアでの戦役や、シュラクサイとの和平といった重要な局面において中心的な役割を果たした人物でした。

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